お兄さんの名前は東堂さんと言うらしい。 公園から歩いて数分のちょっと小奇麗なアパートに案内されて、表札を見たら東堂と書いてあったので勝手に東堂さんと呼ぶことにした。よく考えれば名前も知らないような人に宿を借りるのもおかしな話だ。とりあえずこれあげる、とスーパーの袋を渡すと何だこれと言われた。 「わたしと一緒に火事の跡地を目撃した貴重な肉だよ。今日スーパーで買って、その後一緒に公園で寝たけど秋だから多分まだ食べられる。よく焼けばきっと大丈夫」 「何か悪い物憑いてそうだな」 「逆に考えてみて、それを買いに行ってたおかげで家は燃えたけどわたしは燃えなかったんだよ?」 きっと幸運の肉だよそれ、と適当なことを言っていると釈然としないような顔をしながら「まあ貰えるのなら貰うが」と東堂さんは肉を冷蔵庫へ仕舞った。 それから、そういえば名前は。歳はいくつだ、と質問されたので隠すようなことはせずに正直に答える。春瀬メイ。歳は19。そう告げた途端、未成年かよと呟いた東堂さん。東堂さんはいくつなの?と尋ねると、何で俺の名前知ってるんだと怪訝な顔をされたが、表札見たと伝えればああ、と納得していた。 「東堂尽八。歳は今年で25だ」 「へえ、じゃあわたしと5つ違うんだね」 「5つってことは誕生日これからか」 「そう、早生まれなの」 「大学生か?」 「うん、2年生」 一人暮らししてたってことは実家が遠いのかと尋ねる東堂さんに隣の県だからそこまで、と答える。その後も世間話をするようにお互いについて尋ね合い、一晩しかお世話にならないにしては十分すぎるほど東堂さんの事を知ってしまった。一旦会話が途切れたところで、先にシャワーを浴びてくるように言われる。家主を差し置いてそれは申し訳ないと思ったが、既にタオルと着替えを準備し始めてくれている東堂さんに伝えられる雰囲気では無かったので大人しく先に頂くことにする。 「流石に女物の下着は無いがこれ」 そう言った東堂さんに着替えとタオルと一式渡され、そこの扉を進んだ先とお風呂の場所を案内されたので言われた通り進んで行く。しかし上はともかく下をもう一日履き続けるのはちょっと抵抗がある。かと言って人様に借りた物をノーパンで履く訳にはいかない。 「ねえ東堂さん、この辺コンビニある?」 「一応あるが、何でだ?」 「流石にパンツは替えたいな〜って」 そう伝えると東堂さんは納得したように頷いた。ここから歩いて5分位になるが女性一人じゃ危ないから俺も行こうと言い出した東堂さんに「えっ、いいよ。買うのパンツだし」と拒否の旨を伝えたが、土地勘も無いのに暗い中一人で行くのは無謀だと思わないかと言われれば黙るしかない。仕方無く財布と携帯だけを持って東堂さんの隣を歩く。当たり前のように車道側を陣取る東堂さんに、この人顔もかっこいいし優しいしモテるんだろうなあと思っていると丁度車が来た。わたしが避けようとする前に東堂さんがわたしの肩を抱いてそっと左にずれる。スマートすぎるぞコノヤロウ。 「東堂さんモテるでしょ」 「まあな、美形だしな」 「自分で言うし!」 先ほどの動作があまりにも大人の男という感じでちょっとときめいてしまったわたしだが、この「美形だしな」の一言で全て吹っ飛んだ。美形!と一人でヒーヒー言いながら笑っていると何がおかしい、と東堂さんはむくれたような顔になる。そんな顔をしているとせっかくの美形が台無しだ。 二人で他愛の無い話をしているとあっと言う間にコンビニに着いてしまった。とりあえずわたしはパンツパンツと靴下やストッキングのコーナーで見つけた下着を適当に引っ掴んでレジへ向かう。コンビニでパンツが買えるなんて便利な時代になったものだなあ。 お会計が終わったパンツは一応の気遣いか紙袋に入って返ってきた。紙袋が入ったレジ袋を持って東堂さんを探すと、発泡酒とスルメを入れた籠を持っていたのでそっと近寄って声を掛ける。 「東堂さん」 「ああ、買い物は終わったか?」 「うん」 「俺も今からレジに行くから、何か飲みたい物持って来い」 「えっ、奢ってくれるの!?」 流石に悪いと断ろうとしたのだが。 「ジュースの一本ぐらい奢られておけ。ほら、早く!」 そんな風に急かされてしまい、勢いに負けたわたしは慌てて飲み物のコーナーへ向かう。どれにしよう、と迷った末のカルピスを手に取って東堂さんの背中に駆け寄ると、振り返った東堂さんが籠を持ち上げたのでその中にカルピスを追加した。ごちそうさまです。 140709 ×
|