ドライヤーで髪まで乾かして東堂さんが居るであろうリビングまで戻る。 東堂さん、さっきはごめんとわたしが口を開く前に東堂さんにすまなかったと頭を下げられた。 「ちょっと東堂さん、悪いのわたしなんだからやめてよ」 「いや、不可抗力にしろ見てしまったのだから」 「それ自体は気にしてないからやめてってば」 「俺に気を遣ってくれてるのは分かるが、たとえ嘘でもそんなことは言うな」 「いや、嘘じゃなくて……」 裸を見られたことは、そりゃあちょっとは気にしているが東堂さんに頭を下げられる程深刻に気にしている訳じゃない。というかアレは完全にわたしが悪かったので東堂さんが何で頭を下げる必要があるのかが分からない。 「春瀬さんと一緒に暮らすと決まって、もしかしたらこういうことがあるかもしれないとは思っていたんだ。だが、お互い気を付けていれば大丈夫だと甘く見ていた」 「だからわたしの不注意なんだから東堂さんが謝る必要無いって」 「彼氏でも無い男に裸を見られるのは嫌だったろう」 「東堂さん、話聞いて」 わたしの話を全然聞いていないようなので無理やり肩を掴んで目線を合わす。 緊張した面持ちの東堂さんの頬を掴んで、そのまま頭突きした。 「……とりあえず落ち着きましたか」 「……ああ、とりあえず落ち着いた」 額を擦りながら答えた東堂さんにそれは良かったと返す。 「まず第一に東堂さんは全然悪くないので謝らなくていいです」 「だが、」 「ちょっと黙って聞いてよ」 「ハイ」 「ルームシェアしてる以上、わたしもそういう覚悟は出来てるから東堂さんが思う程ショックは受けてないです」 「そ、そうなのか?」 「うん。一ヶ月強も一緒に暮らしてるけど、わたし、この家と東堂さんのことすごく気に入ってるの。だから、こんなことぐらいでルームシェア解消しようとか言わないでね」 東堂さんの態度を見て今一番不安になったのはそこだった。何だかあのまま東堂さんのペースで話を続けられていたら間違いなくやっぱり若い男女が一緒に暮らすべきではないみたいな方向に行っていた気がする。 「っていうか今以上のことって早々無いからむしろ耐性付いたでしょ!?」 「確かに今以上のことは無いだろうが、本当に春瀬さんはいいのか?」 「いいって言ってんじゃん。東堂さんは気にし過ぎ。女子大生の裸見れてラッキーぐらいに思っとかなきゃ」 「春瀬さんは気にしなさすぎなんだ!っていうか裸見られたのに何でそんないつも通りなんだよ」 「だって一瞬だったし、東堂さんならそれをオカズにして抜くとかしなさそうだし」 「っ!?何てこと言うんだお前は!」 「まあ、あんなんがオカズになるなら全然抜いてくれて構わないんだけどね?」 わざとらしく頭と腰に手を当ててセクシーポーズを取って茶化すとゴンと頭をチョップされた。真っ赤になった東堂さんに決まり文句の「女の子がそんなこと言うな」を言われて、ハイハイと適当にあしらっていると「真面目に聞け」と怒られる。 「何なら、手伝ってあげてもいいよ?」 完全に冗談で、右手で輪っかを作ると今度こそ雷が落ちた。地震、雷、火事、東堂さん。 というか言ってから気付いたのだが、これだとわたしが完全にビッチみたいな感じじゃないだろうか。 もしかしてちょっと進展させるチャンス?と思ったのだがどんなアプローチをしていいか分からないにも程があるだろう。 「……春瀬さんは誰にでもそんなことを言っているのか」 ほら見ろ、東堂さんにも誤解された。 「そんな危ないことしてないって」 「本当か?」 「うん。東堂さんの反応が面白くて言ってるだけ」 「ほんっとにお前は…!」 俺だから良いものの、絶対他の男にそういうこと言うんじゃないぞと言われて嬉しいんだか悲しいんだかな複雑な気持ちだ。 俺だから良いもののってわたしに絶対手を出す心配が無いからそう言ってるんだよね。 分かってはいたがやっぱり気分が落ち込んだので、ちょっと早いが布団を敷き始める。 「何だ、もう寝るのか?」と尋ねる東堂さんに「東堂さんも一緒に寝る?」と提案したが、返ってきたのは「バカ」の一言とデコピンだった。 140727 ×
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