東堂さんが好きかもしれないと思ったはいいものの特に変わらぬ毎日を過ごしていた。 「春瀬さん、テレビに塚本さん出てるぞ」 「えっ、本当に?」 ソファに座る東堂さんに手招きされたので洗い物を中断して東堂さんの隣に座る。 寒かったのか東堂さんは膝にブランケットを掛けていた。 わたしが座ると、寒いだろうと言ってブランケットを広げてわたしの膝にも掛けてくれる。 そう大きい物でも無いので必然的に近づかなければならず、ぴとりと隣に引っ付いてテレビを見るのも寒くなり出してからは最早恒例となってしまった。 春瀬さんもひざ掛けを買ったらどうだと再三言われているが、どうせもっと寒くなったら毛布を被ることになるんだしと理由を付けて断っている。まあ理由は東堂さんとこうしていたいからなんだけど。 久しく自分から好きになる恋愛と言うものをしていなかったので、わたしにもまだ乙女心と言う物があったんだなあとしみじみしているが、相変わらず妹扱いしかされていないことを思い出してずんとへこむ。 一緒に暮らしていると色々な感覚が鈍るのと、お互いに他人に対するスキンシップが多いのとで今のように腕と腕がくっつくぐらいの距離でテレビを見るのもすっかり慣れきってしまっている。いや、嬉しいんだけども。 バラエティ番組に出る塚本さんを眺めながら、俺の方が美形だなと一人頷く東堂さんに「東堂さんうるさいよ」と突っ込んだが、東堂さんを好きかもしれないと思ってからは誰よりも東堂さんがかっこいいと思うようになってしまった。最早好きかもしれないじゃなくて好きなんでしょと一応相談したリカに言われて自分の気持ちを認めた訳だが、この生活を壊すのが嫌で何もアクションを起こせないでいるのが現状だ。 塚本さんの出番も終わったので洗い物を再開させると「春瀬さん先にお風呂入るか?」とソファから声が飛んでくる。これから東堂さんの好きなバラエティ番組が始まるのであと一時間はあのソファの上だと踏んで先に入ると返事をする。 洗い物を終えて着替えを用意すると「じゃあお先に」と一言声を掛けてお風呂の扉を空けた。 冬のお風呂は気持ちいいと満足げに脱衣所へ出たが、ストックしてあるバスタオルが切れていることをすっかり忘れていたことに気付く。 今日の夕方畳んで、そのままリビングに置きっ放しだ。 仕方無いので東堂さんに持ってきて貰おうと脱衣所の扉を少し開け、顔だけ出して東堂さんの名前を呼ぼうとした時だ。 丁度良いタイミングで脱衣所の前を通った東堂さんとばっちり目が合う。 「あ、東堂さん丁度良かった」 「とりあえずドアを閉めようか」 タオル持ってきてと言うだけなので閉めなくてもと思ったが一先ず扉を閉める。 そして当初伝えようとしていた、リビングからタオルを持ってきて欲しい旨をドア越しに伝えると東堂さんは「分かった」と言ってその場から立ち去る。 しかしその後一向に来る気配が無いので、タオルが見つからないのかと考えリビングの中の具体的な場所を言おうと再び扉を開けた時である。 再び丁度良いタイミングで目の前に現れた東堂さんとばっちり目が合う。 あまりにばっちりすぎて一瞬身動きが取れなかったわたしへさっとタオルを渡した東堂さんは動けないわたしに代わって扉を閉めてくれた。 扉が閉まってから、バッと両腕で上半身を隠したが時既に遅し。 先程のように顔だけ出せる程の狭い隙間でなく思いっきり開けてしまったので恐らく全部見えた。 漫画でよくあるお風呂場でどっきりじゃなくて脱衣所でどっきり。 タオルを掴んだままへなへなと床に座り込む。 そりゃあ自分が行動起こせない割に何か進展しないかなとは思っていたがこれは流石に無い。 っていうかまた東堂さんにもっと女としての自覚をうんぬん説教されるパターンじゃないか。 とりあえず着替えたらまず謝ろうと、頭からタオルを被った。 140727 ×
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