「あっ、巻ちゃんだ」 千葉でのクライム大会でのことである。東堂他箱学のクライマー達のお世話の為にマネージャーであるわたしも同行していたわけだが、表彰式も終了してさあ帰るかという所でよく目立つ緑色の頭を見つけた。 今までは会釈程度だったもののツイッターにてリプを飛ばし合う間柄となりそこそこ巻ちゃんと交流することに成功したわたしは足音を殺して巻ちゃんに近づく。 「やあ巻ちゃん!優勝おめでとう!」 東堂の声真似をしながら我らが東堂を抑えて優勝を勝ち取った巻ちゃんの肩をポン!と叩くと少しびくりとしながら彼は振り向いたが、とても微妙な顔をしていた。 「もしかしてそれ東堂の真似かァ?」 「そうだよ。似てるでしょ」 「全然似てねーショ……」 「えっ、そうかな」 新開は似てるって言ってくれたんだけどな、と首を傾げるが巻ちゃんは断固として似てるとは言ってくれなかった。 さすが東堂に付き纏われているだけあって巻ちゃんチェックは厳しい。 まあ新開のチェックが甘すぎるっていうのもあるんだけど「似てる似てる」って笑ってくれたらたとえ嘘でも調子に乗っちゃうじゃん?その結果がこれだけどさ。 「そういえば巻ちゃんさあ」 「何ショ」 「趣味がグラビアってほんと?」 「ぶっ」 思わず噴き出した巻ちゃんに「大丈夫?水いる?」と持っていたペットボトルを差し出したが、「いや、大丈夫ショ」と断られた。 「東堂か」 「誰に聞いたかって意味なら東堂に聞いた」 「女子に言うことじゃねーだろ……」 「その点に関して大丈夫だよ」 東堂に限らずうちの部の男どもはマネージャーを女と思ってないせいで新開荒北東堂に関しては好きなグラビアアイドルからAV女優まで把握してるから、と胸を張れるようなことじゃないが胸を張ってみると「いや、何が大丈夫なのか全然分かんねーけどよ」と至極まっとうな返事をよこされた。確かに何が大丈夫かは全然分からない。巻ちゃんは奇抜なのは見た目だけで割かし真っ当な思考してるよね。 「で、そんな巻ちゃんにお願いがあるんだけどさ」 「……(グラビアの話からって嫌な予感しかしねー)」 「グラビア評論もこなすと噂の巻ちゃんから見てわたしの身体をどう思う?」 「……その噂絶対東堂からだろ」 「東堂からだね」 「そんでもってそれは男に聞くことじゃねーッショ」 「だって荒北がブスとかデブとか言うからさ、まあブスはブスに言われたくねえって反論できるけどデブに関しては体脂肪一桁みたいな男に反論できないじゃん?だから客観的な意見が欲しくて」 さあ遠慮しないで言っていいよ、とポージングをすると巻ちゃんは諦めたように溜息をついた後少し距離をあけて、頭のてっぺんからつま先までをじっと見つめる。 「……別に太ってはねーだろ。正常の範囲ショ。大体の男なんて痩せすぎよりふつうからちょっとふくよかぐらいが好きなんだからそんな気にしなくていいだろ」 「巻ちゃんは優しいねえ。でもそんな取ってような回答じゃなくて本音で話そうか?」 ほら、わたしたちもう立派な親友だよ?とリプライのやり取りでは東堂を凌ぐわたしの言葉に巻ちゃんが再び微妙な顔をする。 無言で見つめ合った後巻ちゃんが覚悟を決めたように口を開いた。 「……本当にいいんだな?」 「もちろん」 「じゃあ俺の意見を言うが、あくまで俺の意見だからな」 「うん」 「まず太腿は良い肉付きだけどその割に上半身が物足りない。つまり胸が無い。あとくびれも足りないからもう少し絞った方が良い。二の腕は丁度良いむちむち感出してるショ。だけどそのむちむち感で胸が足りないのはやっぱり惜しいな。あとツイッターにタイツの写メ載せてた時から思ってたけどお前脚は綺麗ショ。ふくらはぎから踝にかけてしっかり細くなっててメリハリあるし、さっき太腿良い肉付きだっつったけど決して太い訳じゃねえ。尻だって悪くねーし、胸つけて腰細くすりゃ十分魅力的だと俺は思うけどナ」 巻ちゃんが喋り終わった時、あまりに真剣に意見してくれるので思わず拍手してしまった。さすが趣味グラビアと言い張るだけあって言葉に淀みが無い。 そしてこれだけ具体的に指示してくれれば今後の方針もはっきりと決まってくる。 「巻島先生」 「先生て何ショ……」 「腰を細くするのはともかく胸を大きくするにはどうしたらいいんでしょうか?」 「………誰かに揉んでもらう?」 「………巻ちゃんでもそんなこと言うんだね?」 「何でそんな引いた顔してんだよ!言い出したのお前だろ!」 「えっ、だってもっとおっぱい体操とか出てくるのかと思って」 「具体的な方法なんて知らねえッショ!」 「あっ、そうなの!?彼氏いないわたしへの当てつけかと思っちゃったよ!」 「お前が彼氏いないのも知らねーけど、なんか悪い……」 「急にしんみり謝らないでよ」 別に彼氏居ないのそこまで気にしてないよ!?と言ったが「ああ…」と言ったっきり憐れむような視線をよこしてくるので「巻ちゃん、目で語らないで直接言ってよ」と肩を揺さぶると「別に何も語ることなんてないッショ!」とすぐに引っぺがされた。 「お前、近い!」 「えっ」 「だから、距離感がおかしいッショ!」 東堂と言いお前と言いハコガクはそんなんばっかかヨ!と何故か怒られたので「なんかごめん…?」とよく分からないままに謝っておいたら「いや、……こういうの慣れてなくて、大きい声出して悪い」と巻ちゃんもバツが悪そうな顔をする。 その姿を見て、ああこりゃたまらなくかわいいわと真顔で一つ頷いた後「わたしと慣れていけばいいんじゃない!?」と試しに腕を組んでみると、ちょっと照れつつも困ったような顔をするのであまりに箱学のやつらと違う反応に仕掛けたこちらがびっくりしてしまう。 まるで親戚の姉のような目線で微笑ましく巻ちゃんの様子を見守っていると「何か楽しそうなことしてるな!?」と結構離れて居るはずなのにはっきり聞こえる声で着替え終わったらしい東堂が走ってやってくる。 「何だお前達そういう関係だったのか!?」 俺への報告も無しに!?ときゃんきゃん喚く東堂に腕を組んだまま巻ちゃんと顔を見合わせる。このまま普通に否定してもいいのだがそれだとちょっとつまらない。 「そうだよ、わたしついに彼氏が出来たの」 なのでちょっとからかってやろう、というつもりで巻ちゃんの方に更に引っ付いてみれば巻ちゃんの腕がピクリと動き動揺が伝わってくるが無言で視線を合わせ新開直伝のウインクを披露すれば納得が言ったような顔で「悪りーな東堂、おたくのマネージャー貰っちまって」と話を合わせてくれる。 「ひどいぞ二人共!特に名前は彼氏が出来たら一番に東堂に教えるからって言ってただろう!」 「えっ、言ったっけ」 「言った!去年一緒に吉野家行った時!」 「よく覚えてるねアンタ……」 「巻ちゃんも巻ちゃんだ!俺という物がありながら!」 「いや、俺とお前いつそんな関係になった?」 「週3で電話してるだろう!?」 「お前が掛けてくるからな……」 思った以上に東堂が煩かったので組んでいた腕を解いて「ごめん、東堂、嘘」とネタバラシをしたのだが全然人の話を聞いていない東堂に「巻ちゃんはグラビアが趣味だろう!?こんな上から下まで平らなやつのどこを好きになった!?」と間違いなく喧嘩を売られた為「よし、東堂表へ出な」と拳の用意をする。 「暴力はよくないぞ!」 「うっさい!アンタたちは真っ平って言うけどねえ、巻ちゃんはわたしの脚褒めてくれたんだからね!」 「何!?巻ちゃんは名前の脚を好きになったのか!?胸より脚派だったのか!?」 「俺を巻き込むんじゃねーッショ!脚より胸派だ!」 「えっ、そうなの!?だからあんなに胸が足りない胸が足りない言ってたの!?」 「お前達一体どういう状況でそんな話をしたんだ!?」 「お前がコイツに俺の趣味がグラビアつったせいで身体について意見求められたショ!」 「だって荒北がデブデブ言うから!」 「アイツのアレは一種の照れ隠しだから気にするなっていつも言っているだろう!?」 「照れ隠しでデブって言われる者の身にもなってみてよ!?でもいいよ、巻ちゃんが別にデブでは無いって言ってくれたから!」 ね、巻ちゃん!と話を振ると「だから俺を巻き込むなって言ってるッショ!」と怒られたがそれによってまた東堂が「また二人して俺を除け者にする!」と駄駄を捏ねだし最終的に学校に戻ってまでも「巻ちゃんツイッターのリプ俺にはくれないのに名前にだけ送る」とめんどくさいことを言い出し山以外でも巻ちゃんへ執着を見せる東堂を目の当たりにしたわたしは二度と東堂の前で巻ちゃんとの仲良しアピールをしないことを心に誓ったのであった。 140529 ×
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