「あ、今日ねー!!…〜、〜」
「へぇ、まじでか。そりゃ凄ェや」
晴れているとも言えず、寒くも暑くもない微妙な天気の中、俺はいつもと違う道を通って下校していた。
隣には若菜。
よくよく考えてみたら、彼女という存在と帰ったのは初めてかもしれない。
今まで、誰と付き合っても帰りは必ずゆずと帰ってた。言ってしまえば、当たり前の事と言える。俺の日常にゆずとの下校はインプットされているのだから。何年も繰り返していればそりゃ、当たり前となり、日常化していくだろう。
その日常を急に変えたもんだから、そわそわして仕方が無い。見慣れない景色に無性に引き返したい衝動に駆られた。
その衝動を掻き消すために若菜に合わせて笑う。作り笑いで。
俺が、ゆずへの想いを消したのは高1の時。
『総ー悟ー!!!』
「何でィ、煩せェな」
下校時間。教室で俺を待っていたゆずが満面の笑みで駆けてきた。そっけなく返答しながら、その表情に顔が緩むのを感じた。
…これから告げられる事を知らずに。
『あのねー!!私、…彼氏出来ちゃった!!』
「……は?」
さっき告白されたんだ〜、と嬉しそうに語るゆず。
俺は思ってもいなかった事を告げられ、なかなか意味を理解出来なかった。
夕焼けは綺麗に輝いている。
『そーご?』
「…かよ」
『へっ?何したの』
「ソイツの事、本当に好きなのかよ!」
絞り出すようにして出した声。少し荒い言葉になってしまった。
理由によっては無理矢理言いくるめて別れさせる事だって出来る、と思った。
『うーん…今日、初めて話したからまだ分かんない』
「じゃあ何でだよ」
『え?だって、私を好きって言ってくれたんだよ?その事が凄く嬉しいし、これから募っていく気持ちだってあるじゃん??』
狡ィだろ…。
何だよ、ソレ。俺だって、お前のこと好きだ。昔から、ずっと、ずっと好きだった。これだけは絶対ェ、誰にも負けない自信がある。
それを伝えられたら、叫べたら、どんなに良かっただろう。
運命とか、そんな言葉使いたくねェけど、今、痛感した。この時ばかりは、凄く神様とか言う奴を恨んだ。
運命って恋愛って…凄く残酷、だ。
.
.
「あ〜、もうすぐ体育祭だねぇ…」
「…!、そーだねィ」
若菜の声で、現実に引き戻された。
「私も総悟と同じクラスだと良かったなぁ…」
「止めといた方が良いですぜ。マジ煩ェから」
「え〜?でも楽しそうじゃん!!」
…そーいやあの後、綺麗だった筈の夕焼け空が一変して、大雨になったんだっけ。突然の夕立に打たれながら帰ったんだよな。
“不平等だ”
分かってる、そんなの言い訳に過ぎない。自惚れてたんだ。想いを伝えなくてもゆずは必ず俺の隣に居るって。
伝えようと思えば何時でも言えた。けれど、伝えなかった。拒絶されるのが怖くて、今の関係が壊れるのが怖くて。結局、自業自得って奴だ。
あの時、俺は決めた。
アイツが俺以外の奴の隣にいるのなら、忘れよう。この気持ちも、感情も、全部。
そう決心したんだ。
…まぁ、そんな風に決心したのも今じゃ昔。
「総悟〜!!聞いてる?」
「聞いてまさァ」
何時だって考えてんのはゆずの事。
今だってそう。
彼女と居んのに、考えてるのはゆずの事。
…本当、笑っちまうな。