「あー、明日も元気に…っつーのはウゼーな…、アレだ、うん、控えめに頑張るよーに」


…この、教師とは思えないような銀八の言葉で3zの1日が終わる。まぁ、真面目に聞いてる奴なんてこのクラスに居ないんだけれども。

SHRが終わり、部活に向かう人や下校する人などで、学校全体がざわついている。
廊下を見ていると、エリザベス(確か桂君がそう呼んでいたような)が、“桂さん、帰りましょう”というメッセージを持って待機していた。あたし的には可愛いと思うんだけど、総悟は全否定してたな。
山崎君は、ミントンラケットを新調したらしく
「コホン…あー、別に自慢してる訳じゃないからね、コレ」
などと独り言を言っている。可哀想に、誰も聞いちゃいないよ。


私は部活とかが面倒で、俗に言う帰宅部。本来なら、すぐ下校するべきなんだろうけど、部活動が終わる時間まで教室で待機するのが私の日課。
…そして、部活を終えた総悟と一緒に帰るのだ。


小学生の時からそうだった。二人っきりの下校時間は私の大切な時間。たとえ、総悟に彼女が居ても気にせず過ごせる幸せな時間。


…だったのに。




「ゆず」
『どーしたの、総悟』
「今日…先に帰ってて下せェ」
『え、何かあったの?』
「そーじゃないんですがねィ…」
『用事があるなら待つよ?』


「…若菜と、帰るんで…」



私を突き落とすには十分な言葉で。今にも泣きそうだったけど、冷静を保ってるフリをした。
申し訳なさそうにしている総悟に向かって言う。出来る限りの笑顔、で。


『そっか!!うん、分かった』







それから、教室でボーっとしている間にいつの間にか、完全下校の時間になっていた。
静かな教室には私1人。
あぁ、今頃、総悟は彼女と帰っているのかな。笑い合って幸せな時間を過ごして、手なんか繋いだりしちゃうのかな?


何で?なんて聞かなきゃ良かった。
すぐ、“分かった”って言えば聞かずに済んだのに。


「…ゆず」


人が居るはず無い教室に響いた低い声。振り返ると、トシが戸の前に立っていた。


『トシ?どうしたの??』
「…一緒に帰ろーぜ。送ってく」


バツの悪そうな表情を浮かべてトシは言う。
きっと、トシは総悟が誰と帰ったか知ってて、私に気を遣ってくれているのだろう。


『ありがと…』



暫く無言が続いた帰り道。先に口を開いたのはトシだった。


「…アイツ、総悟の事はあんま気にすんなよ?」
『ん…』


トシは私の良き理解者…ってか相談相手。何かあったら直ぐ頼ってしまう。
強がっちゃう私だけど、トシは、涙を見せられる人の1人だ。


『でもさー、結構キツいもんだね』
「……」
『何時かはこうなるって分かってたのになぁ…』



そう、何時かはこうなるって分かってた。私が総悟を特別に想っているように、総悟にだって特別な子が出来るって事。
…覚悟は出来てたよ。
でも、あまりにも総悟が申し訳なさそうに言ってくるから。

なんだか惨めになった。


『一番っ、近くにいてもッ…彼女じゃ、無いんだよね』
「……」
『私じゃ、総悟の特別に、なれないの、かな…?』


トシは相変わらず無言で。ぼうっと夕焼け空を仰いでいる。
無言でいてくれるトシは私のことをとても理解してくれていると思う。慰められると余計悲しくなるから。


無言で頭に置かれた手が凄く温かくて、私を元気づけてくれた。



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