何度突き放したいと思ったんだろう
幼馴染みなんて関係、
消えてしまえばいい
「ゆずー、まだですかィ?」
『まって、後ちょっとで日誌書き終わる!!』
…まだですかィ?何て、嘘。
教室には俺とゆずの2人だけ。この時間がもっと続けば良いと切実に思ってる。
オレンジに染まる教室に響く声。窓から見えるオレンジの葉桜が靡いていた。
「しゃーねーな・・、黒板消すぜィ?」
『うん、有り難う』
無言で黒板を消す。黒板にへばりついてなかなか消えないチョークに少しイラッとした。どうでも良いけど、黄色って消えにくいんだよねィ。服部先生の授業では腹立つほど使ってくる。黒板を消す側の都合も考えて欲しいもんだ。まぁ、あいにく俺のノートはアナログのモノクロでさァ。
『ねー、総悟。今日の晩ご飯さぁ、何が良い?』
「……肉食いてェ」
『・・・肉って・・・。もっと絞ってよ』
「んー、・・・アレだ、ハンバーグが良い」
俺達は“幼馴染み”という関係。
俺はそんなもんを超越した感情を持っているけど。
ゆずにとってはきっとただ、それだけ。
親の仕事の都合とかで、飯は何時もゆずと2人。
ゆずは俺のどんなリクエストにも応えてくれる。中学ん時にふざけ半分で“お菓子の家が食いてェ”つったら、忠実に再現しやがった。しかも夕飯としてだ。止めにはケーキにのってる砂糖で作られた人形。アレを、俺と自分だと言ってのっけていた。
夕飯として食うにはキツいものがあったが、頑張って完食したのを覚えている。
『てか、挽肉あったっけ??』
「帰りに買ってけばいいだろィ』
『それもそうだね』
今日特売だったかなー?、と言いながら意味もなく俺に微笑み掛けるゆず。理由は無いけど、パッと目をそらしてしまった。
ーチャラリラ♪
ポケットに入れていた携帯から、幼稚な電子音が響いた。送信者の名前を確認する。
「あ、若菜」
・・・俺は、ゆずが好きだ。物心ついたときから隣にはいつもゆずが居て。
“好き”っていう気持ちより“大切”っていう気持ちの方が大きかった。“一番近くにいる大切な女の子”・・・こんな感じ。
好きなんて伝えなくても、伝わってるって思ってた。通じてるって思ってた。
ゆずも同じように思ってくれている、って何処かで余裕かましてた。
若菜は、俺の彼女。
傷つきたくなくて、現実を受け止められなくて逃げるために彼女を作った。告白してきたのは若菜から。忘れるため、と自分に言い聞かせてるけど結局他の奴を好きになった事なんて無い。
彼女という存在を作って、忘れたことにしてる。
・・・こんなに近くに居るのに気持ちを伝えられない。本当、笑っちまうな。
小学生の時の俺。
ゆずと幼馴染みで良かったって思った。
中1の時の俺。
ゆずが隣に居る。それが自慢でもあったし、それだけで良かった。
中3の俺。
一番近くに居られることにやっぱり優越感に浸ってた。
高1の俺。
初めて味わった感情。
触れたくても触れられないもどかしさで、この関係を壊したいと思った。
そして、今の俺。
幼馴染みで良かったと思っている。
それが今となっては唯一の繋がりだから。
こんな関係、消えてしまえばいいと何度も思っても。結局、幼馴染みという関係に依存しているのは“俺”だ。