『ハァ…』
「馬鹿、デケェ溜息つくな…ってそれも無理か」
『毎回毎回ありがとね、トシ』
「…気にすんな」
総悟が作った彼女は鈴木さんで5人目。
5人ってかなり多いけど、今までも彼女はみんな長続きしなかったから、ちょっと安心してた。けど、鈴木さんは違うみたい。
言い方がおかしいけど、あんなに総悟と仲が良い彼女は初めてだし、一緒に帰り始めたし。総悟に彼女が居るのは凄く辛かったけど、何とか普通に過ごせてたのは本気じゃないって行動だったから。
本気だったらどうしよう。
なんて、今更…かな。
もし、あの時。
私が自分の気持ちに気づいていたなら。
高一の初夏、大分高校にも慣れて来た頃だった。
あの日も何時も通り、教室で総悟を待っていて。沈んでいく夕日を眺めながら、まだかなぁ、なんて考えてた。
「…井上さん」
ボーッと窓から外を見ている私の背後から掛けられた声。
驚いて振り向くと、声の主は女子が騒いでいたスポーツ男子、田村くんだった。
『え、あ…田村くん』
「田代なんだけど…」
『あっ、ゴメン…。で、どうしたの?』
田村改め、田代くんは心なしかソワソワしている様だった。
右見て、左見て、後ろを見て。よほど人目を気にしているらしい。一通り確認を終えると、真っ直ぐ私の目を見て深呼吸していた。
「好きです!」
『…え?』
「入学した時からずっと好きでした。良ければ俺と…付き合って」
田代くんの顔がやけに赤かったのを覚えている。
私の顔も、ほんのり赤かったかもしれない。
独特の緊張感の中なのに、総悟のことが頭から離れなかった。
田代くんは優しくて、本当に良い人だった。
付き合い始めてしばらくした頃、総悟にも彼女が出来た。
その時、気づいたんだ。
『総悟が、…彼女、出来たって…』
『トシっ、どうしよう…私、総悟が好き…』
教室では今日も、鈴木さんと二人で仲良く話しているんだろうね。
あぁ、前が霞んで来た。この事を後悔したのは何度目だろう。
「ゆず、泣くな…」
『…うん』
トシが強く私を抱き寄せる。
今日は、その優しさに素直に甘えようと思った。
“俺以外たよんな、俺以外の前で泣くな”
総悟、覚えてる?
あの約束、確かに守れなかったのは私だけど。
自分勝手だってわかってるけど。
守らせてくれなかったのは総悟でもあるんだよ。