机に突っ伏し、顔を挙げれば溜息を吐き、また突っ伏す。そんな行為を幾度となく繰り返すあたしを、目の前の白石は困惑したような憐れむような笑顔で見ていたが、あたしの何度目か解らない溜息に痺れを切らしたのか、漸く口を開いた。


『…はあ』
「何や、どないしたん?溜息なんて名前らしくないなぁ」
『ちょいとなー…』
「財前絡みか?」
『ぶっ!!な、何でそれを…』
「見ててバレバレや」
『…何なんかな』
「何がや」
『最近財前がな、カッコ良く見えんねん』
「俺よりも?」
『せや』
「即答かい」
『言っとくけど、あたしは白石がカッコイイと思ったことあらへんで』
「なんやと!」
『まぁそんなことはどうでもええねん』
「俺の容姿をどうでもええで片付けたで、コイツ」


俺の美貌はこんなにエクスタシーやのに、とかふざけた事を真顔で言う白石に、逆にこっちから憐れんだ視線を向ける。その視線に気付いた白石は冗談や、とは言っていたものの、その言葉は半信半疑である。それはともかく、問題は財前だ。此処最近、財前は以前に比べて格段に優しくなった。意地悪もあまり言わなくなったし、何より笑顔が柔らかくなった。そんな財前を見てると…なんや。カッコイイと不覚にも思ってしまう。カッコイイと思えてしまう財前にも吃驚だが、そんな事を考えてしまう自分に一番吃驚だ。


『…何であんなカッコイイんやろ』
「それは…名前のフィルターの所為やろ」
『は?』
「好きなんやろ?財前が」
『あたしが?あの生意気で甘党な財前を?』
「俺が何ですって?」
『だからー…って、ざ、財前!?何で此処に…』
「名前先輩、声でかいっすわ。そしてコレ、借りとったCD」
『あ、あぁ。おおきに』


突如現れた財前に思わず大声を上げてしまった自分が情けない。財前からCDを返してもらう際、不意に指先が触れた場所が一瞬で熱を帯びた。その熱は顔まで侵食し始めたので、その顔を財前に見られないようにと顔を背けた先にはニヤけた顔の白石。あー、殴りたい。この整った顔に右ストレートをお見舞いしたい。


「なぁなぁ財前、名前がお前に話あるんやて」
『はっ!?ちょっ、白石!?』
「この際当たって砕けてこいや!」
『いやいや!砕けたらあかんやろ!』
「…何二人でボソボソ話してるんすか。俺に話あるんとちゃうの?」
「せやで。はよ行ってきぃ」
「ほな、行くで」
『えっ?まっ、待ってよ!』

「…ええなぁ、青春って」


白石の粋な計らい(と本人は思っているのだろう)により、財前に連れて行かれる羽目となった。この原因を招いた当の本人はというと、親指を立て、ウインクをしている。あの親指をへし折りたいと本気で思った。
そうこうしているうちに、辿り着いたのは人影が見られない空き教室。お互い口を開くこともなく、沈黙だけが私達を包んだ。もう逃げ出してしまいたいと思い始めた矢先、財前の低い声が殺風景な教室に静かに響いた。


「…で?話って何すか」
『い、いや、別に大した事じゃあらへんのやけど』
「別にそれでも構わへん。先輩の話が聞きたい」
『なっ…んで、そんな急に優しくしたりするん…?』
「…教えて欲しいん?」
『…うん』
「じゃあ…俺が全部教えたります」


そう言うと、財前は穏やかな笑顔であたしに迫ってきた。驚いて逃げようとするも後ろには壁があり、逃げ道を閉ざされる。そしてお互いの息がかかる、そんな所まで財前は近付いていた。


「…名前先輩は、俺の事好きなん?」
『やっ、ちょっ、近い…!』
「目ぇ合わせて、ちゃんと言うてみ?」
『うっ…す、好きとか良くわからへん!』
「なら…俺と居るとどんな感じや?」
『し、心臓がバクバク言うて…でも触れたいっても思うて…』
「つまり、それが好きってことっすわ」
『す、き?』
「そう。つまり、先輩は俺を?」
『好き…』
「良く出来ました」


ニッコリと笑った財前に頭を撫でられる。何だか誘導尋問されたみたいだ。今更ながら恥ずかしさが込み上げてきて顔を上げられない。すると財前が徐に口を開いた。


「でも…先輩も俺と同じ気持ちやったんやと思うたら…嬉しかったで」
『えっ?』
「せやから、先輩に優しくした」
『それってどう言う…』
「そのまんまの意味や、阿呆」
『あ、阿呆はないやろ阿呆は!』
「で、結局先輩の気持ちはどうなん?」
『どうって…そんなん、もう知っとるやん』
「分からへん。ちゃんと先輩の口から聞きたい」
『っ……財前が、好き』
「うん、知っとる」
『財前も…ちゃんと言うてや』
「嫌」
『なっ!私にだけ言わせるなんて狡いやろ!』
「知らん。それに…言わんでも分かるやろ?」
『分からへん!財前もちゃんと…わっ!』
「…俺は言葉より行動で伝える派なんや」
『そんなん…狡いわ…』
「もう離さへんで」
『…うん』
「好きや」
『…私も』


財前の匂いで一杯になって、初めて自分が財前に抱き締められてる事に気付いた。華奢に見えて意外とがっちりしている財前の肩幅。今にも倒れてしまいそうなくらい心臓が脈打つ中で、財前の制服の裾を握ったら、更に強く抱き締められた。此処だけ時が止まってしまったかのような錯覚に陥る中で、鳴り響いた不釣り合いな着信音。鳴らしてきたのは白石で「やっぱ俺、エクスタシーやったやろ?」と言う文面を見て、財前がしばく!と珍しくキレていた。でも、そんな財前の耳がほんのり赤く色付いているのを見付け、気付かれないようにこっそり笑っといた。






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