最近あの人…名前先輩を目で追っている自分がいて少しばかりショックを受けた。前はからかう材料がないかと面白半分で捜していたが、今はあの時の感情+αで先輩を見付けると嬉しいと感じてしまう。かなり不本意だが、俺は名前先輩が好き…なんだと思う。断じて認めたくないが。


『ざーいぜんっ!何難しい顔しとるん?』
「!!…先輩、急に後ろに立たんといて下さい」
『財前が後ろ取られるなんて珍しいなぁ』
「しかもあんたにって所が一生の不覚っすわ」
『…財前、あたしの事見くびっとるやろ』
「まあ」
『そないあっさり認めんなや!あたし先輩やで?』
「ただ先輩の方がちょっと早く産まれたってだけやろ。精神年齢は変わらん。寧ろ下や」
『キーッ!!』


先輩はポカポカと俺の背中を殴ってきた。大して痛くはなかったが、お返しとしてデコピンをくれといた。先輩は冗談で殴ってたんだろうけど、俺はそんな事しない。俺は何事においても全力投球だ。それが俺のモットー。


『なっにが俺のモットーやアホ!』
「カッコイイやろ」
『朝練もろくに来いへん奴が全力投球とか言えた義理か!あー、いった…』
「低血圧には敵わんわ」
『取り敢えず謝れ!全力投球で私に謝れ!』
「嫌っすわ。先にやってきたんは先輩やし」
『加減っちゅーもんがあるやろ!!』


先輩は相当痛かったらしく、額を押さえ且つ涙目で説教を始めた。あーおもろ。やっぱ見てても構っても飽きへんわ、この人。こんな先輩だから、俺が不覚にも好きになってしまうんや。


『財前!聞いとるん!?』
「はいはい、聞いとりますー」
『絶対聞いてへんかったやろ!』
「バレました?」
『バレバレや!…ったく、財前は私の事、微塵も尊敬してへんやろ』
「…いや、一応尊敬はしとります」
『やっぱり!…って、えっ?』


そう、尊敬はしてる。それこそ微塵だが。…名前先輩は俺に無いものを沢山持ってる。例えば人を疑わないとこ。良く言えば素直、悪く言えば馬鹿。そんなんだから直ぐ俺に騙される。この辺は謙也さんとそっくりや。ただ、俺には先輩みたいに素直になることなんて出来ない。正直になんて生きられない。本音なんて簡単に言えなくてつい天の邪鬼になってしまう。でも先輩は違う。誰にでも笑顔でマネージャーなんて雑用ばかりの仕事を嫌な顔ひとつせずこなしていく。失敗は多いが。
そんな素直で馬鹿な先輩の隣は凄く居心地良くて。だから俺は惹かれていったんだ。まぁこんな事本人には言ってやらんけど。


『…財前、ざーいぜーん』
「あっ、ああ」
『何や、ボーッとして』
「ちょっと考え事…」
『それより私の事尊敬しとるってほんま?』
「冗談やろ」
『なっ、やっぱ嘘やったんかい!』
「先輩、少しは疑わんと酷い目に遭いますよ」
『んー…でも、人を疑うのって悲しいやん。信じてもろた方が相手も嬉しいやろ?』
「…じゃあ、こんな俺でも…あんたは信じてくれはりますか」
『えっ?』
「…やっぱいいっすわ」
『…財前!』
「…何すか」
『私は財前の事、ちゃんと信じとるで!勿論、テニス部皆の事も!』
「…おおきに」
『っ!?財前!!』
「ほな」
『ちょっ、待ちい!』


嬉しすぎてムカついたから先輩のほっぺにキスしといた。そしたら、先輩は顔を真っ赤にして怒鳴った。まぁ此方系には疎そうやしな。

俺の今までの恋愛と言うのは、来るもの拒まず去るもの追わず。そんな感じだった。女なんか適当に選んで適当に付き合って適当に終わり。でも、今は本気で手に入れたいものがある。俺のモットー、全力投球。冗談半分だったけど、ちょっとは本気でやってみるか。俺ばっかりが名前先輩を好きなんて腑に落ちん。絶対、名前先輩を俺よりも好きにさせてやる。






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