んんー、絶頂!やら浪速のスピードスターがいるっちゅー話や!とか、何とも言えない決め台詞が飛び交ういつも通りの練習。俺もいつも通り、無言でボールを打つ。何で先輩達はあんな恥ずかしい台詞を平気で言えるのだろうか。甚だ疑問である。そんな事を思いながらある程度打ち終えて周りを見渡すと、ボールを各コートに運んでいる名前先輩の姿が見えた。


「名前ー!此方にもボール頼むわ!」
『はーい、ただいまー…ぎゃっ!』
「おいおい、大丈夫かいな」
『うー…ごめんな、謙也』
「ええって。怪我とかしてへん?」
『おん、大丈夫や』
「なら良かったわ。もう転ばんようにしぃよ」
『ほんま、ごめんなぁ』


先輩は何処に引っ掛かったのか、無様に転んでテニスボールをぶちまけていた。まぁ先輩らしいっちゃ先輩らしい。只、謙也さんに助けられてるって言うのが見てて腹立つが。その後もボールをいくつか落としたり、ネットに引っ掛かったりと先輩は散々だった。全く阿呆やな、あの人は。
そして今、俺はそんな阿呆な先輩と一緒に部室に居る。決してサボりではない。れっきとした休憩時間だ。


「…名前先輩」
『おん?』
「俺が頼んだのはぜんざいや。おしるこやあらへん」
『そんなんどっちでもええやん』
「ええわけあるか!…ぜんざいなめんといてくれます?」
『おっ、おん。…ゴメン』
「次からは気い付けたってください」
『…はぁ』
「なんやねん」


溜息を吐く先輩にわざわざ俺が聞き返してやったのに、俺の方を見てまた溜息を吐いてきた。なんや、腹立つな。でも、あの元気だけが取り柄みたいな名前先輩が落ちているのは珍しい。普段ならスルーするところだが、仕方無いので先輩に問う。


「どないしたんすか。落ちてる先輩、気色悪いで」
『うっさいわ!…はぁ。あたしって本当駄目やなぁ思うて』
「今更かいな」
『…せやね』


いつもなら俺の悪態にテンポ良くツッコミを入れてくるのに、今日は覇気がない。本当に落ちてるようだ。正直、俺はこう言う時にどうして良いのか解らない。部長とか謙也さんとかなら優しく励ましたりするのだろう。だが、俺にはそんな事出来ない。だから、やっぱり俺の売りである生意気さで対処するしかないんだ。


「…先輩は、少しダメなくらいがちょうど良いんとちゃいます?」
『…えっ?』
「まぁ今日はダメすぎやと思いますけど」
『うっ、うっさい!』


まだいつもよりは覇気が無いものの、先程よりも少し先輩らしくなっている。そんな先輩の姿を見て心無しか安堵する。…って、何で俺が安堵せなあかんねん。自分の事なのによう解らん。


『…財前』
「あっ、あぁ。何すか」
『おおきに。少し気が楽になったわ』
「そーっすか」
『せや、あたしなんてダメで元々やし、失敗したぐらいで落ち込んでたら気が持たんっちゅーねん』
「一人で喋っとりますけど、頭大丈夫なん?」
『財前、ほんまおおきに!後でちゃんとぜんざい奢るわ!!』


さっきとは打って変わって元気なった先輩は、鼻唄なんか歌いながら部室を出て行った。それに続くように俺も部室を出る。すると、何や名前も光も良いことでもあったんかいな、と部長に言われた。良いこと?そんなものは別に何もない。でも…名前先輩に笑顔が戻って嬉しいと思ってしまっているのも、また事実だった。






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