もう好きじゃない

そう自分に言い聞かせて、そう思い込むようにして、君を忘れた。忘れようとした。擦れ違ってもわざと素知らぬふり。君を視界に入れないようにした。そうして私の脳内全てを占めていたと言っても過言ではない君の存在を、頭から追い出していった。



―ねぇ、最近冷たくない?


漸くその存在が頭の片隅くらいに移動しかけていた君が、突然話し掛けてきた。私は目線を合わすことなく、そんなことないと一言告げる。


―俺のこと嫌いになった?


不安そうな声だけが耳に届く。そんなことない。機械のように同じ言の葉を繰り返した。


―だったらなんで俺のこと見ないの?見れないの?


こういう時ばかり、水谷は変に鋭い。そのとおり。見ないんだよ、見れないんだよ。もし見てしまったら、君の存在がたちまち私を侵食していって、好きなんだって認めてしまうから。忘れられなくなるから。でも、君に嫌われるのは怖くて。…そんなことない。と小さくまた同じ言葉を呟いた。


―だったらこっち見てよ


水谷の表情はその単調な声からは読み取れない。私は黙って俯いた。


―お願いだから、俺を見てよ


水谷の声が震えていた。泣きそうな声だった。私は思わず顔を上げる。


―…へへっ、やっと見てくれた


水谷は笑っていた。瞳は濡れて光に反射している。その顔が切なくて、苦しくて。咄嗟にごめんと謝っていた。


―俺、苗字と話すの好きだからさ


好きという言葉に、胸がドキリと高鳴る。水谷にとって、その言葉に深い意味なんてないのに、一瞬でも期待してしまう自分に嫌気がさした。


―だからまた話そうよ!


嬉しかった。同時に悲しかった。必死に忘れようとしたのに、たった数分でまた心奪われる。そんな期待させるようなこと言わないでよ。君が見てるのは、あの子一人なのだから。あの子だけに優しくしてればいい。私なんかに見向きもしなければいい。これ以上傷付きたくないから、だから私は君を突き放す。…突き放そうとした。


―…うん

―ほんとっ!?約束だよ!


絡まる小指から鼓動がどんどん加速していく。意気地無しの私は君を拒むなんて出来なかった。君の優しさにまた甘えた。こんなことしたって、結局傷付くのは自分なのに。君の笑顔が眩しいから、私は無意識に惹かれてしまうんだ。水谷のへにゃりとした笑顔を見て、涙が一筋頬を伝う。これが喜怒哀楽どの感情からきたものなのか、私には分からなかった。




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水仙と水谷って漢字似てますよね

りく

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