『そーご…』


ハチマキを握りしめて、呟く。誰も居ない静かな保健室に彼の名前だけが響いた。外からは賑やかな3zの面々の声が聞こえてくる。自分1人だけ別世界にいるような、そんな気がした。


…意味が分からない。総悟の意図が掴めない。何であのタイミングで?深い意味なんて無いって分かってるのに。意識してしまう自分がいる。その度にチクチクと胸が痛くなる。


『分かってるの?』

“好きな人と、ハチマキ交換すると結ばれる”


私、ちゃんと説明したよね?その意味、分かってるの?
胸が痛い。痛いって思えば思うほど痛くなる。縄で心臓が縛られたみたいに痛い。縛られたことは無いけど。

総悟には彼女が居るって知ってる。でも、私さ、馬鹿だから期待しちゃうよ…。頑張るって決めたから期待しちゃうよ。


少しシワになっているハチマキ。九ちゃんと妙ちゃんのお手製らしい。端っこの方には、sougoと刺繍が入っている。あぁ、それぞれの名前まで入れてくれたんだ。じゃあ、当然総悟が持って行った方のハチマキには私の名前が入っているんだろうな。

総悟のハチマキと交換出来たのだ。本来なら嬉しくて仕様がないだろう。
でも、何だか無性に泣きたくなった。凄く凄く、胸が痛かった。




『ねっ、トシ…。お願いがあるんだけど』
「ん?…あぁ、二人三脚か?」
『うん、お願いしてもいいかな?』
「あぁ、別に構わねェよ」
「ちょっと待て土方コノヤロー」
「あぁん?」
『総悟?』
「ゆずは俺とやるんでさァ」
「わけ分かんねーこと言ってんな」
『そーだよ総悟、いきなりどうしたの?』
「ゆず、騙されちゃいけやせん。土方さんはムッツリなんでさァ。いきなり襲われてもしらねーぜ」
「ふざけんな誰がムッツリだ!!」
『えー…』
「ゆずも信じてんじゃねぇっ!!」
「行きやしょう、ゆず。こんな所にいたらマヨ汚ねぇ空気を吸うことになっちまう」
『え、あ、ちょっ』
「てめぇっ、マヨを侮辱すんな!!だいだいマヨ汚いってなんだコルァ!!!」
「じゃーな土方。スピーカーで全校にムッツリだって事言いふらしてあげまさァ。ありがたく思えよ」
「総悟ォォォォ!!!!」







うわー、日差しが暑い。校舎の中から出てきたから余計キツく感じる。
今は騎馬戦の練習をしている様だった。本来なら男子だけが参加なのだけれど、神楽ちゃんや妙ちゃん、九ちゃん達はバリバリ参加していた。
私も混ざる、と提案したのだが総悟とトシに強く止められたのだ。わたしだって出来るのになぁ、と思いながら神楽ちゃん達を見ているとクラスの男子達の急所を蹴りまくっている。妙ちゃんに関してはある特定人物を殺す勢いで殴っている。あ、コレ無理だわ、と一瞬で諦めがついたのであった。



『よいしょっ』

取りあえず効果音を付けて立ち上がってみたけど、何か虚しくなる。私だけがボーッとしているわけにもいかないので、ドリンクでも作ってきてあげようと思った。


『確か、どこかから拝借したドリンクの粉があるって先生が言ってたよね』


水道場がある所まで歩いていると色々なクラスの集まりがあった。それぞれが小さなスペースで集まっている。あぁ、ウチがグラウンドを占拠してるからか…と理解した私は何だか申し訳なくなって早足で通り過ぎた。

本当に通り過ぎようとした時だった。


「ゆずちゃん!」
『鈴木さん…』


心臓がドキドキと鳴った。治まったと思ったのに、また胸が凄く凄く痛くなった。とつさにハチマキを隠す。

鈴木さんは笑顔。それに合わせるために、私も何とか頑張って笑顔を作る。…きつい。


「Z組、燃えてるね〜!!」
『ははは、ちょっと色々あってね』
「…総悟は?」


例えるなら色んな色の絵の具をぶちまけて黒くした、鈴木さんの口から総悟の名前を聞いた瞬間、そんな気持ちになった。何だろうね、これ。


『何か、用事…?』
「ううん、特に何もないよ。ただ、
 彼氏が今何してるのかなーって思っただけ」

あ、集合掛かってるから行くね、と鈴木さんは走って行った。
嬉しそうに彼氏と言う鈴木さんの顔が頭から離れない。総悟の笑顔も頭から離れない。ぐるぐる、ぐるぐると頭の中を廻っている。ふいに、ぐちゃぐちゃにしてしまいたくなった。頭の中の鈴木さんの顔はバラバラだ。




…嫉妬だ。



頑張ろうと決めたけど、胸が痛くなるのは罪悪感があるから。それでも、鈴木さんの幸せな顔を見ると嫉妬してしまう自分がいる。


『お前の所為だぞ、馬鹿』


ハチマキに呟くも返事はない。当たり前か。



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