「…悟、総悟!!」
「ん、あぁ」
「もうっ、最近上の空になること多いよね」
「悪ィ、悪ィ」


申し訳なさそうに苦笑いして見せた彼。だけど、どことなく意識は遠くにある様だった。

総悟の視線を辿ると隣の机。
…ゆずちゃんの席。
その机を、とても愛しそうに見つめている。ただの机なのに、彼が大切そうに見るだけで何かに包まれている様に見えてしまった。



…うん、知ってるよ。好きな人の好きな人ぐらい。
別に私が、特別勘が鋭いとかそういう訳じゃなくて、見てて分かるのだ。フツーに。ただ、すれ違う全ての人が気づくとかそういうものではない。たとえば、総悟を好きだったりとか、総悟の友達であったりとか、彼の事を見ていれば直ぐ分かってしまう、という意味。

私は結構前から総悟を好きだった。彼が、私じゃない別な彼女と付き合っている時から見てきた。
手なんか届かないと思ってたから、最初はただ眺めているだけ…という程度だけど。移動教室なんかですれ違ったときは、一日中花が舞ってる位嬉しかったっけ。勇気を出して挨拶したら、驚いきながらも返してくれた。そこで顔見知り、に昇格。


そんな時、総悟が彼女と別れたって知った。というか、その彼女が友達に慰められている所に遭遇しちゃったんだけども。


“やっぱり…、っ沖田くんはゆずっていう子が…”


その時、総悟を眺めているときの記憶がフラッシュバックした。
3Zの人と騒いでるとき、友達と話しているとき、ボーッとしている時、彼は何を見ていただろう。そうだ、一人の女の子だ。

例えるならパズルのピースがパチッと填った、そんな感じ。


それから駄目元で総悟に告白して、彼女という座についた。緊張したけれども、“あー、これから宜しくでさァ”って軽い返事で拍子抜けしたんだっけ。


前から見てる限り、総悟は私を含めて付き合った子と、一緒に帰るとかそれらしい事はしていない。
…ゆずちゃんとはしてるくせにね。

それがたまらなく悔しくて。
そんなの分かってた事なのに、総悟の中でのゆずちゃんの存在が大きすぎる。総悟の一番は“彼女”じゃ、無い。

彼女になったばかりの頃は、いつか振り向かせてやる!って思ってた。でも、現実は甘くない。敵わないのが悲しくて、せめて一緒に居られる時間だけでも増やそうと、一緒に帰りたいと総悟にお願いしたのだ。
多分、総悟はゆずちゃんと帰りたいはず。
ごめんね。

相変わらず、総悟は上の空で一点を見つめている。


ねぇ、総悟。
ゆずちゃんが好きなんでしょ?
別に、私のところを好きになってとは言わないよ。そんなのは別に良いの。

でもね、一緒に居るとき位はゆずちゃんじゃなくて、私を見て欲しいっていうのは贅沢なのかな?



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -