気にくわねェ、気にくわねェ、気にくわねェ。

最近よく、野郎とゆずが一緒に居る所を見かける。
そして、必要以上にムシャクシャしてしまう。
さっきだってそうだ。休み時間になるなり、朝から元気の無かったゆずをつれて野郎は消えた。代わりに俺の所にやってきたのは若菜。いや、別に嫌って訳ではねぇんだけど。一応、彼女だし。

笑顔で話しかけてくる若菜に取り敢えず相づちだけは打っておく。けれども、俺の意識は隣の机だった。

…昔から、そうだったっけ。




毎日、近所の公園で暗くなるまで遊んでいた。俺と近藤さんとゆずと野郎と山崎。お決まりのメンツだった。
俺とゆずは家が隣ということもあって常に一緒だった。同じ地区内に野郎、近藤さん、山崎の家があって。
…腐れ縁というのか、とにかく何時もつるんでた。


その頃からゆずのことが好きだったけど、具体的なものは何一つ無くて。こうしよう、こうしたい、といった考えは無かった。



ある日。
その日もいつもの様に、公園で騒いでいた。確か、鬼ごっこの時だっただろうか。

遡ってみるとあの頃から俺ァ、どうもSだったらしい。ちょっとばかり、汚い手を使ってゆずに意地悪をしてしまった。年齢が年齢なので、もちろんゆずは泣いてしまう。
さすがにやり過ぎたな、と思いゆずに謝ろうとした時、アイツは


『ふぇっ、トシくんっ…』

野郎を、頼った。


その行動に、何かが弾けるようにショックを受けた俺は、八つ当たりとしか言いようが無いが、ゆずとしばらく口を利かなかった。
何時も隣にいた俺が突然無視しだしたもんだから、勿論ゆずは泣くわけで。


『そーちゃん、ごめんね…っ私、何かしたのかなぁっ…』
「別に」


本気で泣いているゆずをみて罪悪感が俺を襲ったが、あえて冷たくあしらった。丸いくりっとした瞳からはポロポロと涙が溢れていて長い睫毛が濡れていた。


『そーちゃんっどう、したら良いの…?』


ちくしょー。
本当ならもっと冷たく当たろうと思っていたのに、そうはいかなくなった。
ゆずがギュッと抱きついて来たから。負けた。つくづくコイツには弱い。


「俺以外たよんな、俺以外の前で泣くな」
『…え?』
「約束、でさァ。守れやすか?」
『うんっ、約束、する』


俺は当たり前のように、ゆずのおでこにキスをした。約束の意味を込めて。





俺の馬鹿みたいに強い独占欲が生まれたのはきっとあの時だ。
あの約束の後、どうしたっけなァ。そうだ、手ェ繋いで帰ったんだっけな。我ながら、餓鬼のくせにギザなことしたねィ。


あの約束、お前の中ではもう時効だよな。
さっきの様子じゃ、野郎を頼って、野郎の前で泣いてるんだろう。あの頃の俺が、あんな風にオレ様発言をしてお前を束縛出来たのは、絶対的な自信があったから。

今じゃ、もう…



「…悟、総悟!!」
「ん、あぁ」
「もうっ、最近上の空になること多いよね」
「悪ィ、悪ィ」


ゆずの事、忘れるって言ったのは何処の誰だ?俺だ。俺のことを一番分かってるのは俺。
忘れられない、忘れられる訳がないと分かってるのも俺だ。


どうしたらいいんでしょうねィ、ゆず。席の住人が居ない隣の机に、俺は想いはせていた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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