“好きなんじゃろ?”
仁王に言われた言葉が頭から離れない。いつもなら早弁をする授業中も胸が一杯で、食う気にならなかった。もちろん真面目に授業をうけられる筈もなく、ぼぅっと斜め前の名字を見つめていた。
俺が名字を好き?
ないないないない。だって名字だぞ!
うるせぇ位無駄に明るくて、騒がしい。負けず嫌いで活発。女テニのレギュラーで、人望も厚い。何故か仁王と仲がいい。俺が知ってる名字はこんなもんか。
1年の時も2年の時もクラスは違かったし、今年になって会話する程度の仲になった。部活が一緒だったから俺は名字の事を1年の時から知ってはいたけれども。その程度の繋がりしかなかったのに、俺がコイツを好き?本当にないないないない。
大体俺は、もっと女の子らしくて控えめで料理が出来る可愛い子が好きなんだっつの。確かに名字の笑顔は可愛いななんて思う。常に周りに気を配っていて、困った奴は見捨てない。優しい奴。んでもってノリもいいから、人気がある。
あ、髪の毛を耳にかけた。横顔も整ってんな。狭い肩、ほっせぇ腕、さらさらの髪の毛。触りてぇな…じゃなくて!!
何なんだ俺は。けなしてた筈なのに褒めちぎってるじゃねーか。しかも何考えてんだよ、気持ち悪ぃ!自分でツッコミを入れた心臓はまだドキドキと脈を打っていて。
俺がコイツを好き?マジでないないない、…ないよな?
「〜であるから…よし、この問題を丸井!」
「…はっ!?(やべぇ、聞いてなかった)」
脳内妄想…じゃなくて、物思いに耽っていたもんだから、いきなり指名されてパニックになった。落ち着け、俺。天才なんだろ、俺。
「どうしたー、聞いてなかったのかぁ?」
まずい、非常にまずい。いくら天才の俺だって、出来ない時はあるもんだ。でも今、その時が来なくてもいいだろぃ。この先生(通称ネッチー)はしつこいって有名だ。話を聞いていなかったなんてことがばれた日にゃあ、確実に評定がさがる。
視線を泳がせ、斜め前をふと見た時だった。名字の口が、動いている。
「…じゅう、さん…です」
「ちゃんと聞いてたんだな、よろしい!」
はい、次ー。ご機嫌ネッチーが黒板に説明を書き始めた。一方、俺は放心状態で。背中は若干湿っていて、冷や汗だなと思った。はぁ、アドレナリン出まくったっつーの!
恩人である名字にお礼を言おうとしたが、名字は黒板を見て真剣にノートをとっていたから止めた。やっぱ横顔は綺麗で。
ちょっと、いやほんの少し、まじでちょっとだけ、ときめいたって認めてやるぜぃ。
02 自覚と無自覚と本音