深い眠りにつく前に山何とかさんによって起こされた。一番の至福である睡眠を邪魔されてこの地味男も殴ってやりたい衝動に駆られたが、山何とかさんが起こしてくれたお陰でいい夢が見れたから見逃す事にする。夢は浅い眠りの時に見るらしいからね。山何とかさんには何かスッキリした顔してるね、と言われた。そりゃそうだろう。所詮夢の中ではあるが、あの土方を思いっ切り殴れたのだから。
暫く歩いていると食堂に着いた。じゃあ後は自分で取って食べてね。そう言い残して山何とかさんは去って行った。此処までしたんだから最後まで責任持てよ。少々山何とかさんを恨めしく思いながら出来合いの食事を取る。流石に女子にこの量は多いので半分の量にしてもらった。そして空いてる席はないかと辺りを見渡す。すると、近藤さんがこちらに手を振っているのを見付けたので其処に向かった。


「ありすちゃん!此処空いてるから座りな!」
『ありがとうございます』
「部屋は大丈夫だったか?」
『はい。結構綺麗だったし広さも申し分ないです』
「そうかそうか!何か足りないものとかあったら遠慮せずに言ってくれよ!」
『はい』


ガハハと笑いながら近藤さんはご飯を掻っ込む。近藤さんの隣、つまり私の正面には土方さんが座っていて思わず口角が上がる。


「…何だよニヤけた顔しやがって」
『いいえ、何でも』
「…近藤さん、俺の顔に何か付いてるか?」
「いや?別に何も付いてないぞ」


土方さんは私の顔を見て怪訝そうな顔をしている。私はと言うと、この顔に右ストレートを撃ち込んだ感覚を思い出して一人笑いが込み上げていた。私に殴られるのが夢の中だけで済んだんだ。有り難く思え。そんな意味を込めた視線を土方さんの方に向けると…料理が見事なまでに真っ黄色に染色されていた。


『…何すか、それ』
「何って…マヨネーズだろ」
『マヨネーズ…』
「何だよ」
『マヨネーズ…良いですよね!』


私は瞳を輝かた。何を隠そう私は生粋のマヨラーなのだ。まぁ流石に此処までの量はかけないが。土方さんは一瞬驚いた顔をしたが、見る見る内に私と同じく瞳を輝かせてきた。この黄色い瞳は間違いない、マヨラーの目だ。


「お前にはマヨネーズの良さが分かるのか!」
『はい!マヨネーズって何にでも合いますよね!』
「だよな!そうか、お前も同士だったのか。どうだ、マヨネーズ使うか?」
『いえ、土方さんが使ったマヨネーズなんて使いたくありません。料理が不味くなる』
「…テメェ、この野郎!!」
『うわあああ!』


土方さんはマヨネーズ片手に追い掛けてきた。近藤さんが食事中だぞ!と言って止めてくれなければ、私はあの土方コノヤローによって汚染されてしまった可哀相なマヨネーズを頭にかけられていたことだろう。あー、怖い怖い。


「お前っ…全部聞こえてんだよ!」
「トシ!食事中くらい静かにしないか!」
「ッチ…」
『全く、これだから土方さんは困りますね』
「全部お前の所為だろーが!」
「本当、土方はろくでなしなヤローだぜィ」
「お前に言われる筋合いはねぇ!」


いつの間に居たのか、総悟の一言でまた二人は喧嘩に発展していった。近藤さんも諦めたのか、歯止めをかけることをしない。無論、私が制止をかける訳もなく、二人は騒がしく表へ出て行った。一応場は弁えているらしい。静かになった食堂で私は料理に手を付けた。うん、美味しい。


「全く、アイツ等懲りねーなぁ」
『でも賑やかでいいじゃないですか』
「ははっ、そりゃそーだな!」


私には兄弟がいない。親戚とも疎遠だった為、従兄弟なんかとの関わりもない。だからこうして皆で騒ぐのが、実は楽しくて嬉しかったりする。そんな私の心情を知ってか知らぬか、近藤さんは私の頭を軽く撫でた。その後戻ってきた土方さんに総悟と一緒に悪態をつく。兄弟がいたらこんな感じなのかな、と何となく思った。



110322



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