今現在の私の顔は自分でも間抜け面だと思う。その証拠に隣に居る土方さんは笑いを堪えるのに必死だ。でも、そんな事に怒る余裕もない。その訳は私の頭の中が“何故”と言うたった二文字の言葉に占領されてしまっているからである。この状況を目の前にして何度でも言いたくなる言葉“何故”。今日の私の流行語大賞だ。


『えっ…何故?』
「ぶっ…くくっ…おまっ、顔が…」
『私の顔なんか今はどうでも良いんです。其れよりもこの状況を説明してください』


ずっと笑ってる土方さんにそろそろ堪忍袋の緒が切れそうになった。そんな私を悟ったのか、土方さんは軽く咳払いをして視線を合わせたかと思うと直ぐに泳がせた。…この仕草は何度か見た事がある。そう、両親の話になるとよくやっていた土方さんの仕草だ。


「あ、あのな」
『はい』
「お前の家、取り壊されることになったんだよ」
『…何故』
「お前、親戚とかと疎遠で身寄りが無かったろ?だから入院中も俺達真選組が世話したし、家も要らないだろうって…、」


土方さんが言い終える前に私は土方さんに掴み掛かっていた。土方さんのばつが悪そうな顔とは裏腹に、私の顔は青筋が立つくらいの形相をしてるに違いない。


『確かに私は身寄りが無いです。そんな身寄りのない私が両親を奪われ、家までも奪われたら私はどうしたら良いんですか。生憎、家は家計もギリギリだったので資産なんか殆んど無いですし。何、此れは新手の苛めですか。ホームレスになれってか?何処ぞやのホームレス中学生改めホームレス高校生やれってかコノヤロー』
「……」


土方さんはやっぱりばつが悪そうな顔で何も言わない。私だって土方さんが悪くないのは知ってるし、土方さんに当たっても仕方がないことも解ってる。でも、でも…何処かにこの胸の蟠りを吐き出さないと私は怒りと絶望に押し潰されてしまいそうだったんだ。


「…すまねぇ」
『…別に、土方さんが悪い訳じゃないでしょ』
「俺達に出来る事があるならなんだってする。そう近藤さんも言ってたぜ」
『…なんでも…』


なんだってする。土方さんの言葉が熱の冷めてきた頭の中でこだまする。なんでもすると言うなら私のこの頼みも聞いてくれるんじゃないだろうか。そうすれば私は住まいを失わずに済む。…ちょっと難しいかもしれないが、一か八かやってみよう。


『…土方さん』
「何だ」
『その近藤さんに逢わせてくれませんかね』
「近藤さんに?何故だ」
「俺なら此処に居るぞ!」
「こ、近藤さん!?いつの間に居やがったんだ…」


成る程、此れが近藤さんか。何だ、さっき会ったゴリラじゃん。でも自称ではあるが副長の土方さんがさん付けするくらいなんだ、位は最低でも土方さんより上なのだろう。そう考えると、副長は二番手だから真選組のトップと考えておかしくはないはず。だったら話すのにも好都合だ。


『近藤さん』
「うん?どうした、ありすちゃん」
『私、真選組に住みます』
「ハァァ!?おまっ、何言ってんだ!ってか、既に決定事項?」
「俺は別に構わないぞ!」
「近藤さん!?」


ガハハと笑いながら、近藤さんは私の申し出をあっさりと承諾した。…こんなに簡単に決めちゃって良いのだろうか。まぁ土方さんは納得してないようだが。


「只な、ありすちゃん」
『はい』
「真選組は武佐苦しい男ばっかりの所だ。それでも良いか?」
『構いません。貴方よりも武佐苦しい人は居ないと思われるので大丈夫です』
「えええええ!?ちょっ、それ酷くない!?」
「オイ、近藤さん!コイツを真選組に住まわして大丈夫なのかよ!」
「ん?別に部屋も余ってるし、皆も了承…」
「そうじゃねェ!…真選組はいつ狙われてもおかしくない危険地帯だ。そんな所に無能な奴を置いて何が起こるか解ったもんじゃねェ。…折角助かった命なのに無駄になっちまうかも知れねェだろ」
「トシ…。そんなにありすちゃんの事を…」
『…土方さん、心配は要りません』
「…ああ?」
『たとえ危険な目に遭ったとしても土方さんが護ってくれますもの』
「はぁ!?何で俺がお前を…」
「そうだぞトシ!お前がありすちゃんを護ってやれば問題無いな!!」
「なっ!?近藤さんまで…」


本当は危険地帯と聞いて率直に恐いと思った。でも土方さんや総悟、それに近藤さんが居るなら大丈夫だと何故かこの時は思えた。


「…ッチ、解ったよ。俺が護りゃ良いんだろ」
『あっ、ありがとうございます!!』
「トシ、よく言ったぞ!それにトシだけじゃなくて俺達真選組全員でありすちゃんをを護るから。なっ?」
『本当に…ありがとう、ございます…』


土方さんや近藤さんの言葉に、自分で言い出したことながらも涙が出てきた。近藤さんはそんな私の頭を強く、そして優しく撫でてくれる。近藤さんの手ってお父さんみたいだとか思ったら、もっと涙が出てきて。今日は一生分の涙を使い果たしたんじゃないかってくらい泣いた一日だった。



090816


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -