突然の出来事だった。あまりにも突然すぎて理解が出来なかった。只漠然と思ったこと。


あぁ、わたしはしぬんだ―――






目が覚めたら目の前は真っ白な天井だったなんて在り来たりな事をまさか自分が体験するとは思ってもみなかった。何処か現実とは思えない世界で私は思った。自分は死んだのだろうか、と。ところが声に出ていたらしい。立派に生きてるから安心しろ、なんて言葉が返ってきた。あっ、人が居たんだ。


「気が付いたか」
『気が付いたみたいですね』
「みたいって…お前の事だろうが」


顔を上下左右に動かしながら辺りを見渡す。上には壁、下には吊るされた足、右には窓、左には扉と椅子に腰掛けた恐そうな青年…否、閻魔大王かもしれない。


「災難だったな。トラックと交通事故に遭うなんてよ」
『私は舌を抜かれるのでしょうか』
「…何の話だ」
『閻魔大王様、私は地獄に墜ちてしまうのですか』
「誰が閻魔大王だ。お前の死後なんて知ったこっちゃねェよ」


閻魔大王じゃない。では誰だ。以前に会ったことがあるような気がするけどなかったような気もする。それよりも私は本当に死んだのだろうか。


『閻魔大王様じゃなければ貴方は何ですか、神様とでも言うのですか。…フッ、有り得ませんよね。今にも恐喝しそうな顔した神様なんて、何処を探しても存在しませんよね』
「…てめェ、名誉毀損でしょっぴくぞ」
『貴方こそセクハラ、正式名称セクシャルハラスメントの現行犯で警察呼びますよ』
「誰が好き好んでテメェなんかにセクハラなんてするか!第一俺が警察だしな」
『…貴方が警察?ヤクザの間違いではないですか?』
「よーし、そろそろ腹でも斬ってもらおうか」
『そんな事より私は死んだのでしょうか』
「然り気無くスルーすんじゃねェよ。死んでるのはお前の頭の中だけだ」


つまり私は生きている、らしい。試しに片手を握ってみると自分の手の温もりが伝わってきた。それから自分は警察だと宣言する青年に中指を突き立ててみる。…思いっきり殴られた。


『っだ!!何するんですか!仮にも病人に対して!!』
「自業自得だ」
『あーあ。殴られた所為で脳細胞が死んじゃったよ。ちゃんと責任とってください』
「安心しろ。お前の脳細胞なんて死んでたも同然だ」
『貴方本当に警察なんですか?市民に対する労りの気持ちが微塵も感じられません』
「お前は労るに値しない存在じゃねェか。それに俺は歴とした真選組副長だ」
『ふ、副長ぉ!?貴方みたいな人が警察ってだけでも信じられないのに況してや副長だなんて…世も末ですね』
「テメェ…」


その時。まもなく面会時間が終了致します、なんてアナウンスが流れた。自称警察の副長さん(年上だろうし、一応さんくらいは付けとこう)は何か言いたげだったが、大人しく帰ってくれるようだ。


「っの、糞餓鬼が…」
『さようなら、自称警察の副長さん』
「テメェ、後で覚えてろよ」
『何ですか、その悪役がよく使うお決まりの台詞は』
「少し黙っとけ!」
『そういえば私の両親は何処に居るのでしょう』
「あ、あぁ…っと、もう帰んねェとな…」


自称警察の副長さんは曖昧に答えながら部屋を出て行った。もしかしたら両親はまだ目が覚めてないのかも知れない。明日には逢えるといいな、なんて思いながら私は静かに瞼を落とす。時はまだ夕暮れ。紅い光が窓から射し込む。だけど私はそのまま眠りにつくのだった。




090318


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テーマ「人外ファンタジー」
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