『ギャー!!濡れちゃう、つーかもう手遅れっ!!』
「いいからとにかく走れ!!」


突然の大雨に見舞われた俺達は、鞄を頭の上に乗せるという何とも言えない格好で必死に走っていた。
さっきまでは晴れだったってのに。
何故こんなことになっているかというと、小一時間前…。









SHRが終わり、帰ろうと鞄を持った俺はドアを出た所で気が変わり、屋上へ向かった。
屋上の扉を開くとやっぱり瞳が居て。私も今来たところ、なんて言うもんだから無性に嬉しかった。

だが、屋上だけがゆったりとした空気に包まれる…なんて漫画みたいに行かなかった。



「毎日毎日、居なくなるなァとは思ったが…こんな所に居やしたか、ムッツリ土方コノヤロー」
「多串君、女の子を誑かしちゃいけません!!」
「トシィィ!!何で俺に言ってくれなかったァァ!?」


血の気が引いていくのが分かった。
どうやら連日の行動(サボリ)の所為で怪しがられていた俺は、コイツらに目をつけられていたらしい。隣の瞳は台風の様に騒がしいコイツらん見てあほみてーに口を開けてポカンとしている。
そんな瞳を横に俺は盛大な溜息を吐いた。


「つーか、お前ら何しに来たんだよ」
「土方さんこそ、こんな所で何してるんでィ。…あーヤダヤダ、男って怖いでさァ。獣でさァ」


待て待て、お前も男だろ。その軽蔑の眼差し止めてくんない?つーかデタラメ言ってんな。


「そうなのかトシィィ!!本当なのかァァァァ!?」


アンタはさっきから煩い。ちょっとは落ち着け。そして真に受けんな。


「ふーん、永島って多串くんの彼女だったんだー。あんなムッツリ止めて俺にしない?」
『は…?え…?』


テメーは何口説いてんだァァァ!!!つーか、ムッツリって何だよ、ムッツリって。


これ以上コイツらの近くにいたら何言われるか知ったもんじゃねぇ、と思った俺は無言で瞳の手を引いて走り出していた。


『え、ちょ、トシ??』
「良いから行くぞ」


明日、事情聴取だからなー!!という何とも言えないハモリを利かせた声が俺達の背中を押した。


そのまま校門を出て、学校の近くの公園まで来た俺達を待っていたのはバケツを逆さまにしたような飴。いや、雨。

そして、冒頭に戻るわけである。





何とか雨宿り出来そうな木を見つけた俺達は、急いで避難した。
頭に鞄を乗せてはいたが殆ど無意味で、俺も瞳もびしょ濡れだった。


『ひゃー、冷たいね』
「いきなりだったもんな。大丈夫か?」
『うん、平気』


相変わらず雨はザァァと音をたてて降っている。
ふとさっきの騒ぎを思い出すと、顔が赤くなっていくように感じた。ついこの間なんか嘘だけど自分から宣言したくせに、俺って奴は矛盾している。


「…何か、ごめんな」
『え、何が?』
「っ…その、彼女ってことに勝手にされて…」
『あぁ、何だ。そんなこと』
「おまっ、そんなことって…」


何事も無かったかのように切り返す瞳。意識していた自分が恥ずかしい。



『嫌じゃないよ』
「…は?」
『…むしろ、嬉しい』


照れ隠しなのか、そっぽをむいた瞳。
胸から込み上げてくる感情を抑えきれなくなった俺は、瞳を抱き寄せた。正しくは抱き寄せていた。自分ってこんなに制御できないものなのか?溢れだす想いが止まらない。



「…好きだ」
『…私も好き』


これだけで十分だった。





大雨も台風も、ぼくらには敵わない


2008.08.30 のん


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