ドン、ドン、ドンドンドン
何処かから響いてくるのは、太鼓か何かの音だった。

空は真っ青で、雲一つ無いと言うと嘘になるけど。まぁ、雲は少ない方かな。それで持って、日差しはジリジリと痛いほど攻撃してくる。最も、木陰で休んでいるあたしにはほとんど害は無いんだけれども。
背中の汗はまだ引かない。


今は俗に言う夏休み真っ只中。目一杯夏休みを楽しみたい所だが、生憎我が立海大付属中テニス部に休みなんていう甘いものは無い。ここからはテニスコートがよく見える。オレンジ色のユニフォームを着た集団が声を張り上げ、盛り上げている。コートの中には最終調整に入ったレギュラー陣。全国まであと、片手で数えられる程の日数しか無くなった。


幸村の手術も無事成功、部活にも顔を出すほど回復していた。あの分だと、コートに立てる日も遠くないかもしれない。
今日も幸村は部活に参加していてコートの中で部員に指示を出している。あの鬼部長がコートに立つだけで、部の雰囲気がまた一段と引き締まるからやっぱり凄い。
でも、そんな雰囲気になるのは幸村の所為だけではない。

関東大会決勝、王者立海は青学に、負けた。
一年の時からマネをやってるあたしの目から見ても、今年はズバ抜けて強い。
幸村抜きでも当たり前のように全国制覇するのだろうと誰もが思っていたはずだ。
だから。
部員全員が王者の座を取り戻すために練習している。
誰一人弱音を吐かない。
夏休みなのに休みがなくたって。この殺人級の暑さの中でも。
気迫が、決意が、今年は桁違いだった。


『…王者の誇り、か』

知ってるよ、それぞれが練習が終わった後でも隠れて練習してること。
テーピングでガチガチに固めてるのに隠してること。
新しい技を会得するために無茶してること。
マネージャーなのにそれを止めないのは知っているから。
みんなが誰よりも努力してきたことを、分かっているから。
思い出すように思い浮べながら、目を閉じてしまった。















ぴしゃっ

『冷たっ!』


「せんぱーい、居眠りッスかー?」
「日射病なんぞたるんどる!」
「こらこら、真田じゃないんだから。具合はどうだい?」
「やっぱ暑い時には水浴びが一番だろぃ」
「プリッ」
「君たち病人に向かってやめたまえ」
「マネージャーの疲れが溜まっていた確率96%」
「あとでアイス奢ってやるよ。いや、ブン太と赤也のはねぇかんな!」


冷たさに目を覚まし、振り返るとそこにはレギュラー陣。
いつの間にか練習も終わっていたようだ。
額には汗をかいている。きっと練習が終わってすぐに来てくれたのだろう。


「いつも雑用ばかり悪いね。僕も、皆も、感謝してる」


何だか照れ臭くて言葉を返せなかった。
皆も優しく微笑んでいたから。






じょーしょー立海大!
レッツゴーレッツゴー立海大!−−…

太鼓の音とともに聞こえてきた声。
あぁ、なるほどね。さっきの太鼓の音も応援団か。
この暑い中、テニス部の為に練習してくれてる。
そのことを皆も気付いたようだった。



『皆、応援してる。勿論、あたしも』


だから頑張って。楽しんで。力を出し切って。
悔いのない試合をして欲しい。
髪の毛から雫が落ちた。Tシャツも湿っていて冷たい。けれどそれは、汗の不快感を伴う湿りじゃなくて心地よい冷たさだった。



「みんな、分かっているね?」
「今年は挑戦者だ。必ず王者の称号を奪回する!」

「「「イエッサー!!」」」



ドン、ドン、ドンドンドン
青い空に太鼓が響く。
何だかんだ言って、あたしも青春を謳歌してるんだななんて思った。



090806 のん



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