「泣き場所提供しやしょうか」
『あぁぁー!もうっ!!』


これで何度目だろう。総悟の胸を借りるのは。屋上のコンクリートの上に座り込んで総悟の胸に顔を埋める。鼻の上の方がつーんとした。

またか、またかまたか。
どうも、あたしは男運がないらしい。いや、男を見る目がないのか。浮気ぐせのある男やタラシばかり好きになる傾向がある。昨日、彼氏が他の女と腕を組んで歩いていた。一瞬で心が凍ったね。今日の朝問い詰めてみたら、あっさり認めやがった。芽生えた殺意を抑えながら、渾身の力で奴を殴り、別れを告げたのであった。


「毎度毎度よく懲りないねィ」
『うっさいハゲ!!』
「ハゲてねーよ」
『…アイツ、否定もしなかったし。嘘ぐらいつけよって話だよね』


ポンポンとあやすように頭を撫でられる。その手つきは優しくて、心地よかった。
もう全てがどうでもいい。そんなに難しいことなのかな。特別何かをして欲しい訳じゃないのに。付き合ったらあたしだけを好きでいて欲しいだけなのに。浮気しないことってそんなに難しいの?


『うぅー、もう嫌だぁー!!』
「名前、男見る目がないんでィ」
『何でも手に入る総悟には分かんないよっ!片想いなんてしたことないでしょ!?』


総悟は黙ったまま何も答えなかった。
あぁ、あたし最低だ。総悟の優しさに甘えるだけ甘えて八つ当たり。こんなんだから浮気されるんだよ。


『総悟…ごめ「俺、今日誕生日なんでさァ」


謝ろうとしたあたしの声を掻き消して告げられたカミングアウト。それはあまりにも唐突で。あぁ、そうですかとしか言い様がない。


「色んな女からプレゼント貰いやした」
『自慢かコノヤロー』
「でも、一番祝ってほしい女にはまだ“おめでとう”の一言も言われてないんでさァ」
『へぇ、総悟でもそんなことってあるんだ』
「その女ってのは男見る目がなくて、浮気されまくりで、そのたびぬ俺の所で泣くくせに八つ当たりしてくる女で、俺の想いに全く気付かねーし、俺の前で好きな奴の話とかしやがるし、挙げ句の果てに手に入らないモノはねぇ?…腹立つんだよっ!!」


感情を全面に出して声を荒げた後、そっぽを向いた。彼の頬はほんのり赤かった。何を言われたか一瞬理解出来なかったけど、ここまで言われて分からないほどあたしは鈍くない。


『総悟っ』
「…なんでィ」


『誕生日、おめでとう』



照れ臭くて、顔を見て言えなかった。けれど、見上げた彼は子供のような純粋で可愛い笑顔を浮かべていて。
蜂蜜色の髪の毛が太陽の光を浴びてきらきらと輝いた。




090720 のん


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