『好きなら私を抱きしめなさい!』
「はぁ!?」


突拍子も無いことを言いながら両腕を広げる彼女に盛大な溜め息を吐いた。そりゃ俺だってさ。いつも名前に触れたいって思ってるよ。でも敢えてそれをしないのは名前のことが本当に大切だから、触れたら何をしてしまうかわからねぇからだってこと、こいつは分かってるんだろうか。


『ほら、早く抱きしめなさいよ』
「いや、その…ねぇ?」
『ねぇ?じゃないわよ!何?花井は私のこと好きじゃないの?』
「そりゃ好きだけど…」
『なら抱きしめなさい』
「やっ、それとこれとは話が違う訳で…」
『何が違うのよ!』


バン!と名前は思いっ切り目の前の机を叩く。その音に思わず肩が上がった。名前は少々涙目になりながら叩いた右手を左右に振っている。どうやら相当痛かったようだ。そんなに自分を痛め付けてまで何を怒っているんだ?


『なんで…抱きしめてくれないのよ』
「なんでって…」
『花井は本当に私のことが好きなの…?』
「お、おう」
『好きだって言う割には付き合う前と何にも変わらないじゃない』
「うっ…」
『私は…花井が私を本当に好きなのか、分からないよ…』


名前は涙を零すまいと必死に堪えている。名前は絶対人前で涙を見せない。そんな奴を泣かせるなんて俺は最低な男だ。俺は名前に近付き、割れ物を扱うかのようにそっと抱きしめた。


「名前…ごめん」
『…謝るくらいならさっさと抱きしめればいいのに』
「俺だってさ、ずっと名前を抱きしめたかったよ」
『じゃあなんで…』
「名前が大事だから」
『えっ?』
「名前のことが本当に好きだから…だから簡単に触れちゃいけないような、そんな気がしてたんだ」
『何それ…いつの時代の話?ただのヘタレじゃないの?』
「ははっ、そうかもな」


目が少し赤く腫れてるけど、やっと名前の笑顔が見れた。そして名前は強く俺を抱きしめ返す。嬉しいことだけど、名前の匂いが、感触が、こんなに近くて…うわああああ!


『ちょっ、何よ!』
「ダメだ、これ以上はダメだ…」
『何でダメなのよ!』
「いや、ちょっと…興奮しちゃう、と言うか…」
『なっ、バカ!変態!』


そう言って俺に背を向けた名前の耳は真っ赤だった。そのことが何だか嬉しくて、名前の頭を数回撫でる。名前は頬を膨らませながら俺を見上げ、そしてニッコリと笑った。やべっ、また興奮してしまう…!




むっつり花井くんと強気な彼女ちゃん

110219 りく



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テーマ「人外ファンタジー」
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