『えー、ウソー!?』
「……」
『あはは、でさぁ…』


私は今、沖田隊長の部屋にいる。普段は真選組の女中として働く身だが、休日が重なるとこうして沖田隊長と二人で過ごす。真選組は中々忙しいためにあまり遠出は出来ないが、沖田隊長と一緒に時間を共有出来ることが何よりの幸せだった。
そして今の現状はというと、沖田隊長がゲームをしている傍ら、私は携帯で友人と電話中。久々の友人との会話は大いに盛り上がり、途切れることを知らない。沖田隊長は珍しく終始無言でいるようだったが、電話に夢中になっている私は気にも留めなかった。


『うんうん、それで?』
『いやいや、それはさぁ…』


フッと。突然私を黒い影が覆った。見上げれば、無表情の沖田隊長が私を見下ろしている。


《名前ー?どうしたのー?》
『えっ?うん、ちょっと…あっ』


刹那。私の右手に握られていた携帯が目の前の沖田隊長に奪われる。そして何を思ったのか、沖田隊長は携帯を空に放り投げ…自前の刀でそれを串刺しにした。


『ああああああ!!』


私は思わず叫んだ。いや、この状況を目の当たりにして叫ばずにいられる者はきっといないだろう。私は無惨に打ち砕かれた携帯を震える手で持ち上げ、瞳に怒りを燈しながら、破壊した張本人を見上げる。


『ちょっと!何するんですか!!』
「お前がずっと電話してるのが悪いんでィ」
『だからってこんな…』


私は今一度、可哀相な携帯を視界に入れる。理不尽な沖田隊長の行動と大事な相棒を失った喪失感で、最早言葉が出てこなかった。呆然と相棒を見つめる私を、いつも感じている懐かしくて愛おしい温もりが包み込む。


『ちょっ、何を…』
「…お前は、」
『えっ?』
「俺だけ見てろよ。携帯じゃなくて、俺だけを…」


私を抱き締める腕の力がより強くなった。普段はドSで横暴な彼が、時としてこんな風に子供みたいになってしまう。そんな沖田隊長が可愛くて愛しくて、項垂れる栗色の頭を優しく撫でた。


『すみません、沖田隊長』
「…総悟」
『総悟…ごめん』
「…うん」
『でも、総悟も私のこと構ってくれなかったじゃないですか』
「…じゃあ、今からすっげー愛してやる」
『いや、ちょっ、くるしっ…』
「…まぁ今はこれで我慢してやるけど、本当はこんなんじゃ足りねェんだぜィ?」


そう言って浮かべた不適な笑みは、いつものドSそのものだった。毎回毎回沖田隊長には振り回されてばかりなのに好きだから許してしまう私は、沖田隊長に相当甘いのかもしれない。



「だから総悟だって、言ってんだろィ?」
『ははっ、ごめんごめん』
「名前…好きだぜィ」
『私も好きですよ。沖田…』
「だから」
『総悟、ですよね』
「…今度そう呼ばなかったら、どうなるか分かってんだろうねィ?」
『うっ…』



これからも沖田隊長…いや、総悟に振り回されっぱなしになりそうです。




110117 りく



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