三番目・<二>
 





「爽くん、僕は爽くんのシャンプーになりたいんだ」

七月の頃だった。

暑くて、汗をかくのが嫌いな爽くんは、会う度いつもいい香りがしていた。シャワー後のシャンプーの香りだ。

僕はいつも爽くんの黒い髪ばかり見ていた。
柔らかそうで、ふわふわとした、優しさを集めたような黒い髪。

夏の強い紫外線のせいで、僕の首は、首輪をしている部分だけ白かった。

まるで外してもいつもそこに爽くんのくれた首輪があるようで、僕は嬉しかったのだけれど。

親友のミナからすれば、笑い話だったようだ。


ミナは身体を売っている男の子。

可愛くて背が小さくて、股間に付いているものと胸がないのを計算に入れなければ、ほんとの女の子みたいに見える。中身は完全に意地悪な男の子だけれど。

ミナは、僕の部屋で、暑い暑いとうなっていた。

ミナとは、小学校の時から仲良しで、お互い、自分たちの空気感を敏感に感じ取って、自然に寄り添っていた。

「なんで逢ちゃんはさ、こんな暑いのに首輪なんかしてるわけ?しかも黒の、革の、いかにも夏と正反対な!」


たまにミナは、僕と爽くんのことや、僕の爽くんへの愛を知っているにも関わらず、
こんな風に意地悪を言って僕をいじめた。

もちろんこの時も、ミナは僕が嬉しくっていつも肌身離さず首輪を付けていることを知っていて、こんなことを言っていた。

「ミナ、僕、爽くんの三番目になれたんだよ」

僕が嬉々としてそう言うと

ミナはうんざりとした表情で
「もうミミタコ」と言った。

「この1ヶ月、何度聞かされたか。暑くて暑くて聞いてられない」

「なんでよ、聞いてよ!僕ミナにしか話せないんだからね!」

「うざー。だいたい三番目とか他人に自慢できる話じゃないから。それに首輪ってなに。そういう存在です!ってアピールしてるみたいだよ、やめなよ。どうせ逢ちゃんはそれでも尻尾振って喜ぶんだろうけどさ、ってか喜んでるんだけどさ。そろそろ目覚ましなよ。僕のこと親友って思ってるなら、わかるでしょ?僕の言ってること。」

「全然わかんない!」

「むかつくな!その首輪ぜってー外してやる!!捨ててやる!!」

「うわっ!やめてよ!ミナ!!」


そうして僕の首輪は結局奪い取られ、くっきりと白い首輪のあとが見られてしまった。


「ぶ!はははは!なんなのそれ!!恥ずかし!絶対僕なら嫌だ!だから外さないんだ!ぎゃははは!!」

僕はあんまり笑われるので、少し恥ずかしくなって顔が赤くなった。

「もう、ミナ笑わないでよ」


最後は半泣きになってミナから首輪を奪い返した。







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