セブンデイズ・マジック | ナノ
一通りの家事を済ませた後、俺はテレビを見ていた。
適当に回したチャンネルでは若い女子向けの今流行の物を紹介する番組がやっていた。
安カワ★ショッピングモール…ふーん、名前も好きなんだろうな、こういうの。
女子の趣味は俺にはつくづく理解できなかった。……名前が好きなら、行ってやってもいいけど。
「ただいまー。トウヤなに見てるの?」
噂をすればなんとやら。
後ろから聞こえた声に思わずリモコンを落とした。
「いつの間に居たんだよ。帰ったらさっさと言えよバカ」
「今帰ってきたんだってば。
あ!このショッピングモール最近ここらへんにできたんだよ」
名前は喋りながら学校のバッグを降ろして辺りを見回した。
何やってんだ、と言いかけたところで名前の口は動き出す。
「あれえ、どこ行ったかな。こないだクーポンもらったのに」
「…なあ、名前行きたい?」
「別に」
俺の言葉をあっさりと流した名前はクーポンを見つけたらしくはしゃいでる。
「俺暇なんだけど」
「そんなに行きたいの?トウヤ」
「別にそんなんじゃないけど暇今すぐ出かけないともう死にそうなくらい暇あーなんか出かけたい気分だわ例えばショッピングモールとか出かけたい気分だわ」
「トウヤうざい」
「うるせー連れてけ」
名前はきょとんとする。が、すぐににやりとした笑みに変わった。
「しょーがない、連れて行って差し上げましょう」
こうして今日の予定は決定した。
*
「すげ、こっちの世界のショッピングモールってこんな広いんだ」
「ここは結構大型なんだよー。田舎とかは2階で終わりだったりとかね」
元々生まれ育ったカノコが小さな町だったせいか、ライモンに初めて行った時の衝撃は凄まじいものだった。
今の心情はその時のものとよく似ている。
「そんじゃイチオシのアイス屋行きたいな、わたし」
「アイス…まあいいけど」
俺は名前の横を、名前のペースにあわせて歩いた。
アイス屋と言われて思い浮かんだのがヒウンアイスの存在だ。
あのアイスはこの世界で売っているのか。一瞬疑問に思ったが、あり得ないだろう。
「じゃじゃーん!ここがわたしイチオシ、アイス屋さん!」
そこは41と書いてある看板(屋根みたいだ)の至って普通のアイス屋だった。
よほど好きなのか名前はぺらぺらと喋る。いちご味がどうのだとか、でも一番すきなのはキャラメルだとかどうの。
「何これ、ヒウンアイス?」
「は!?」
俺はその単語を聞いてどれほど驚いたことだろうか。
名前は嬉しそうに説明を続けていく。もうここで働け。
「今ポケモンキャンペーンっていうのやってるらしいよ。買う?」
俺はぶんぶんと縦に首を振る。
名前は会計を済ませ、すたすたと俺の所へ帰ってくる。
「はいどうぞ!」
差し出されたそれはまさしくヒウンアイスだった。衝撃プライスレス。
「なんか食べるの勿体ねえわ」
「トウヤ、目が輝いてるよ!?」
「べ、つに……!」
そう言いながらも口元が緩んでいるのが自分でもよく分かった。
本当にあるなんて思ってもいなかったのだ。嬉しいに決まってるだろうがバカヤロウ。
名前はもう半分までバイバニラアイスを食べていた。俺はといえば、まだ3口。
そっくり過ぎて逆に本当に食べるのが勿体無いのだ。そうしている間にもどんどんアイスは溶けていく。
「トウヤ食べないの?」
「…………もったいない」
「溶けちゃうほうがもったいないよ?あーあーたれてるたれてる!」
ごもっともだった。俺は一気にバイバニラアイスを口の中に詰め込んだ。
ひんやりを通り越して頬が痛くなってくる。
「その顔リスみたい!」
そう言って名前は笑った。
どっかの地方にパチリスっていうポケモンが居るとアララギ博士が話していた記憶がある。
名前に、見せてやりたいと思った。どんな顔をするだろう。またこんな風に笑うだろうか。
「トウヤ…?どうしたの…?」
「なんでもねーよ!こっち見んな!」
いつの間にか名前をじろじろ見てたらしい。名前はきょとんとしたまま、俺の前を歩き出した。
*
「トウヤーこれ似合う?」
「お前こっちのほうが似合うと思う」
名前が服を持ちながらひょっこりと試着室から顔を出す。
俺達は名前の提案で服屋へ来ている。何ナチュナルに答えてんだ俺そしてちゃっかり服を差し出すな俺。
「ありがとー!トウヤってセンス何気にいいよね」
しばらく閉じていたカーテンが開く。
俺が差し出した服を着た名前がにへらと笑っていた。
「何気にってなんだよ。お前こそかわ…わ、わ、いくねーよ!」
「ノリツッコミ!?」
「この服買うことにするよ、かわいいし!」
俺が言えなかった言葉をあっさりと口にして名前は試着室から出てきた。
俺が差し出した服を抱えて、レジへと向かっていく。俺はその後姿を焼き付けるように見送った。
「今日はありがとー。楽しかったよ」
帰り道を歩きながら名前は俺のほうを振り返って言う。
「お前が行きたいって言ったからついてっただけだし」
「そんなこと言った覚えないんだけど」
名前が持ってる紙袋を奪い取る。なんか重そうで、むかついたから。
「あ、なにすんの!」
「こんな重そうなの似合わねえし俺が持っとこうと思って」
「……ありがとう」
名前がそう呟いたきり家に着くまで会話は無かった。
沈んでいく夕日と目が合うと、トウコやベル、チェレンの姿が頭をよぎった。
なんでこんなに楽しいんだ、俺はあっちの世界が居場所なはずなのに。
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title by けらけらさま
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