セブンデイズ・マジック | ナノ



今日も名前と両親は張り気ってそれぞれの場所へと行った。

トウヤは自分も連れてって欲しいとは思わなかったが、とにかく暇で仕方がなかった。
テレビでは昨日のドラマの続編らしきものが放送されている。気になることは当然無い。
名前の母に頼まれた家事はとっくに全て終わってしまった。

「専業主婦かよ、ばっかじゃねえの俺」

1人で自分を鼻で笑ってみたって虚しいだけだった。
意味もなくリビングをうろうろしているとテーブルに紙切れが置いてあることに気がつく。
近づいてみると、名前の母の字で名前宛に買ってきて欲しい食材や生活用品を書いたメモとお金が横に置いてあった。
トウヤは目を光らせた。へー丁度いい暇つぶしになりそうじゃん。

「スーパー場所分かんねーけど」

しかし、名前が帰ってくる前にスーパーを探し出し買い物を済ますことのできる程時間は有り余っていた。
こうなった行くしかない。トウヤは迷わずメモとお金をポケットに突っ込み、玄関から出て行った。

***

今日は咲とのおしゃべりはせず急ぎ足で帰ってくる。 テーブルを見た名前は唖然とした。まさにナニコレ珍百景だ。
食材と生活用品の山、山、山。訳を聞きたくてトウヤを見るが、当の本人は怪しげな雰囲気漂うドラマを見ながら呻いている。

「ただいま。トウヤー…これどういうこと?」
「ああ名前か」

振り向いたトウヤを見て、名前は目を丸くした。
トウヤは顔も膝もすりむいて傷だらけだったからだ。
頬の傷はまだ血が止まってないらしく、じんわりと鈍い紅が滲んでいる。

「ちょっと!なにがあったの!」

名前は急いで救急箱を取り出そうとした。
ああ、どこやったっけ、どこやったっけ。
棚を必死に漁りながら、肝心なときに出てこない救急箱に苛立ちを募らせる。

「ちょっと救急箱自首しに来て」
「買い物行ったら怪我しただけだし平気だよ」
「いや買い物で怪我ってどうしちゃったの!?」

真面目にほんのちょっぴり心配になっちゃうじゃん、と名前が呟きかけた時、救急箱がぼたりとどこかの棚から落ちてきて名前の頭に直撃した。今度は名前が呻く。

「俺の手当てするついでに名前の頭も治療したら?」
「どういう意味で?」
「そういう意味で」

名前をむかつかせる天才腹黒大魔王よろしくトウヤは頬を自分の手でなぞって「いたっ」と漏らす。
テレビを見てるトウヤの横に、救急箱を持って座ると名前はトウヤと目が合った。事情聴取開始だ。



「えっ?スーパーの場所知らないのに買い物行ったの?」
「文句あんのかよ」
「危ないじゃん、今度からわたしも行くし」
「お前の母さんにお世話になってるからいいんだよ、こんくらい」

トウヤの話を要約すると
『俺、トウヤ!昨日名前の部屋に落ちてきた10歳(夢オチ)!!
朝そいつの母さんが娘に置いてった買い物のメモ見つけて
結構お世話になっちゃってるし道も知らないのに買い物にチャレンジしてきたら、
坂道やらアスファルトやらに引っかかって転びまくったんだぜ!』ということらしい。全く要約出来てない。

話を聞いてまず、名前は意外とトウヤは親孝行者なのかもしれない。
うっそ、あの腹黒が?冗談でしょ?と思った。もちろん口には出さない。

「大丈夫じゃないって…トウヤ怪我してたらお母さん心配するんだから」
「名前は心配しねえの?」
「…するに決まってんじゃん、ばか」

珍しく可愛いオーラを出してるトウヤに名前はどうしたらいいか分らず硬直する。

「なにしてんだよ、早く。それとも何、まさか照れてんの?」

恋人のような雰囲気に呑まれかけていた名前が俯いて顔を背けた瞬間、
トウヤはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら名前と一気に距離を詰めた。
名前は目の前の大魔王を一瞬でも可愛らしいと思ってしまった自分に殺意を向ける。
しかし、トウヤも言った直後硬直して俯く。
トウヤの耳は苺のように赤くなっていた。自分で言って恥ずかしかったのかあからさまに視線を名前から逸らした。

「べ、別に……」
「なん、なんだよ…さっさとしろし……」



トウヤの手当てをしながらも二人はぎくしゃくとした雰囲気を引きずり、それは名前の母が帰ってくるまで続いた。