ガーネット | ナノ
空の青が今日も生徒達を包み込んでいた。
勿論、今が週に数度ある自分のパートナーであるポケモンと、バトルにおいて重要な絆を深めるための授業時間だからだ。
ほとんどの生徒達がめいめいはしゃいで授業を受ける中、一人浮かない顔をした少女がいた。ナマエだ。
校庭の隅で芝生に座り込んでぼんやりとしている。
「どうしたんだろ?」
あたしはツタージャと、休憩を兼ねて彼女の傍へ近寄り、隣に腰を降ろした。
「ナマエ、何かあったの?」
「ベル……うーんとね…………」
彼女のパートナー・イーブイを膝に乗っけたままナマエはうんうん唸っている。
暫くうなり続けた後、腹を括るようにナマエは呟いた。
「この子のことで迷っててさ」
ナマエの指すこの子とは、言うまでもなくイーブイのことだ。
ナマエが浮かない顔をしているのが心配なのか、イーブイまで明るい雰囲気では無かった。
垂れ下がった尻尾をゆらゆら揺らしながら、ナマエとあたしの表情を交互に伺っている。
イーブイにまつわる悩みになりそうなことと最近の状況を照らし合わせていくと、思い当たる節にぶつかった。
「どのタイプに進化させようか迷ってるんだね」
あたしが確信めいた言い方をすると、ナマエは控えめに頷いた。
そろそろタイプ専攻の時期だ。
この学校の生徒は、バトルや育成、進化などについて学ぶ他に、好きなポケモンのタイプを一つ選んで専攻しなければならない。
パートナーのタイプで決めるのが普通だし、あたしだってそうだ。
でも、パートナーがしんかポケモンと呼ばれるほど進化の選択肢が広いイーブイとなっては、
どのタイプを専攻すればよいのかナマエも決めかねているのだろう。
進化させるタイプはすなわち専攻することになるタイプだし、悩むのは当たり前だと思う。
「候補のタイプはあるの?」
「くさか、みずか……ほのおがいいかな」
ナマエはなぜかほのおタイプだけ間を置いて答えた。
頬っぺたが林檎のように真っ赤に染めあがっている。熱でもあるのだろうか。
そう聞こうとしたけど、赤いほっぺたと悩んでいる以外はいつものナマエなので、その言葉を引っ込める。
リーフィア、シャワーズ、そしてブースター。
基本の三タイプはとてもナマエらしいチョイスだと思った。
「ねえ、ナマエ。パートナー申請の日のこと、覚えてるかな」
*
「おうい!ナマエー!」
人混みをくぐろうとするナマエを見つけて、あたしは夢中で駆け寄った。
今日はパートナーにしたいポケモンを申請する日だったから、1年生全員がごった返していた。
あたしの腕にはツタージャ、ナマエの腕にはイーブイが収まっている。
合流したあたし達はそのまま、一緒に帰ることになった。
「ねえ、ナマエはその子、何に進化させるのお?」
校門よりかは人の少ないバスの中、ぱっと思いついた質問をナマエにぶつける。
しかし、ナマエは困ったように笑うだけで答えようとしなかった。
景色が流れてゆく。色とりどり、目まぐるしく変わってゆく景色。
あたしはそれを眺めながら、同じように景色を眺めるナマエの返事を待った。
「まだ決めてないんだ。自然に身を任せてみるのも悪くないかなって」
いたずらを仕掛けた時の子供みたいに名前は口元をほころばせたけど、目が真剣だと言っていた。
そっか、そんな道もあったよね。
あたしが言うと、ナマエの目は今度こそきれいな三日月になった。
*
ナマエは5秒程考えた後、あたしの目をじっと、ただじっと見た。
そして、くすぐったそうに微笑む。
ああ、もう何も言わなくても大丈夫だ。とあたしは悟った。
言わなくたってわかる。じっと見て笑う、あたし達の間にはそれだけでいい。
「ありがとう、ベル」
「いいよお。それに専攻タイプを決めるのはフィールドワークのあとだから!」
近々ヤグルマの森で野生のポケモンたちを観察したり、バトルの実習をするためのフィールドワークが行われる。
タイプ専攻の届出を提出するのはその後だ。
ナマエは安心したようにイーブイと校庭のまんなかへ走り出す。
「あたし達もいこっか」
ツタージャに呼びかけると、普段よりも元気のよい返事が返ってきた。
彼なりにナマエ達の悩みが解決したことを喜んでいるのかもしれない。
遠くでナマエが手を振っているのが見えた。
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