▽ 07



「ハル。起きて。朝だよ」
「ん……ああっ!」

薄く瞼を開けたわたしは飛び起きた。
や、やってしまった…………。初日から寝坊なんて恥ずかしすぎる。
当の起こしに来てくれたセイイチさんはそんなわたしを見てくすくす笑っている。

「朝食にしよう」

セイイチさんが言ったので、わたしは夢の内容に後ろ髪を引かれるような思いでベッドを後にした。


「いただきます」

十分後。わたしとセイイチさんは食卓を囲んでいた。
目の前に並んだ料理を凝視する。焼き魚とトースト…………なんともチャレンジ精神あふれる組み合わせだけど、セイイチさんの好みなのだろうか。
だったとしたら、ただの居候であるわたしは何も言うまい。
わたしの反応をじっと眺めていたセイイチさんが申し訳なさそうに眉を下げ、口を開いた。

「……変かな?」
「へ?」
「下界の食事を参考にしてみたんだけど……」

突然の事実にわたしの目が点になる。

「俺は食事の必要が無いから、普段は食べないんだ」
「なるほど」

だからか、とわたしは一人合点した。
昨晩のセイイチさんの箸さばきは若干、いや本当のことを言えばかなり変わっていたのだ。
相手が相手なので言えずじまいだったけれどしばらくその光景は忘れられないだろう。

「えーと……ふつう、魚にはご飯ですね。セイイチさんは魚がお好きなんですか?」
「それは内緒」

と言いつつ、セイイチさんは嬉しそうにしている。
わたしは記憶のはじっこに、『セイイチさんは魚が好き』と走り書きしておいた。
その時そんなことを考えていなければわたしは気付けていたのだろうか。
セイイチさんがほんの、ほんの少しだけ寂しそうに笑っていたことに。





「午前は仕事があるから、午後まで好きに過ごしてていいよ」

わたしがトーストをかじり終える頃、そう言い残して一足先にセイイチさんは行ってしまった。
どこにって、もちろん仕事にだ。
てっきりこの後すぐに『見る』かと思っていたので、予期せぬ空き時間にわたしは一人戸惑いながら焼き魚のホッケくんに相談する。
ねえねえ、この後どうする?なんちゃって。

……本当にどうしよう。





着替え以外の身支度を一通り終えて部屋に戻る。
昨日セイイチさんとした長い話の中には、ここでの過ごし方も含まれていた。
服は望んだときに随時部屋のクローゼットに追加されるそうだ。おそるべし、ゴッドテクノロジー(?)。
生活に必要な洗面所・脱衣所・浴室は一階の同じ部屋にあって、トイレは浴室の向かい側。リビングも一階だ。
わたしの部屋は二階でセイイチさんの部屋は向かい側にある。
わたしの部屋の隣は書斎で自由に使っていいけど、向かい側にある青い扉はセイイチさんが言わない限り絶対に開けてはいけないときつく言われた。
わたし調べ(単なる勘)によると、青い扉の部屋はセイイチさんの……神様の仕事場なんだと思う。


「わあ……!」

クローゼットの中には案の定というべきか服があった。
入っていたのはワンピースとポンチョ、そして茶色い皮のサンダルだ。
ワンピースは真っ白の膝下丈。レースがあしらわれている裾は軽くて、春風と踊るように広がりそうだ。
ポンチョは羽織るのに丁度良い厚さで腰まである。胸元からは大きなリボンが垂れ下がっていた。

三点ともわたしの好みぴったりだ。後でセイイチさんにお礼を言わなくては。
そして、この服に腕を通しながら今日の予定は決められた。
確か明るい内は外出は自由だとも言っていた。庭園を散歩しに行ってみよう。



// 20131111






「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -