▽ 06



神の国とは言えど、時間に流れがあることは変わりないらしい。
外はすっかり日が落ちてお月様が胸を張るように空に輝いている。
神の国が位置的にどこにあるかは神のみぞ知るところだけど、きっと人智を超えた場所にあるんだろう。

わたしはセイイチさんからあてがわれた部屋の窓から、満天の星空を眺めていた。
窓から見える桜が月や星の光にやわらかく照らされていた。

来るときは制服が今はセイイチさんが調達したパジャマに着替えている。
セイイチさんもまさか人が泊まるなんて考えたこともないだろうに、部屋はさっき掃除を終えたように整理されていた。

夕飯はどうしたかというとなんとこれもセイイチさんに作ってもらったのだ。
セイイチさんは毎日自分で家事をしているそうだ。
神様の仕事はいつしているのか気になる。
「お世話になってばかりで申し訳ない」と言えば、「気にすることはない」とセイイチさんは言った。
神様が人間に夕食を作ったり、パジャマを用意したり、こうして家に泊めたりなんてものすごく変な感じ。
明日からはわたしが手伝おう、出来る限り。そう思いながらふかふかのベッドに潜り込んだ。


「どうしてるのかな……」

眠りの淵に腰掛けたとき、自然に言葉が口からこぼれた。
しかし自分の名前が思い出せなかったのと同じように続きが出てこない。
両親やクラスの仲良しな子の顔はすぐに思い浮かんだけどしっくりこなかった。彼氏もいないしなあ。
誰かは分からないけど、わたしには大事な人がいる。
やんわり痛む頭がそれを知らせてくれていた。


誰なんだろう、わたしの大事な人は。
もやもやとした思いを毛布と一緒に口元へと寄せながら夢の海へと飛び込む間際。

ちらりと脳裏に過ぎったのは、燃えるような赤色だった。






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