狩人夢 | ナノ

  11


ユーリはそう簡単には枯れないらしい。
強い生命力があり、例え茎の部分から切られても水さえあれば半永久的にその姿を保つという。
少し調べたらそんな一文を見つけた。
根本近くから切って持ってきちゃったし近いうちに枯れちゃうかなと思ったけど大丈夫みたいだ。

ちょうど良い花瓶がなかったから今はグラスに水を入れて代用している。じっくり見れば微弱ながらオーラのようなモノも感じ、蕾の中には何か大きな力が眠っているようにも思えた。
それは戦闘態勢に入った彼女を見たときに近い感覚。今はまだ全容を掴めない秘められた力。
この花と彼女はどこか似ているような気がした。

窓際に置かれたユーリを興味深そうに、そして嬉しそうに眺める彼女の横顔に、ボクもまた静かに笑った。



11.変態さんが見てる



「ん、美味しい……!」

テーブルに並ぶ豪華な夕食をひとくち食べた瞬間、思わず賞美の声が上がった。
「そろそろ普通の食事も大丈夫だろ? 夕食にしよっか」と笑ったヒソカに促され奥の部屋に行くと、いつの間にかほくほくと湯気の立ちのぼる出来たて料理が用意されていた。
私もヒソカも相変わらず同じ部屋にいたので作ったのは別の人物で間違いない。
考えてみれば飛行船を運転する人だって必要だし私達以外にも人はいるはずなのに、気配がまったくなかったりする。

というのも夕食の少し前、絶が功を奏したのかだいぶ体が軽くなったのでヒソカに広い船内を案内して貰ったんだけど、私達以外の人の姿はおろか気配さえまったく感じられなかったのだ。

『いない、わけじゃないよね……?』
『さあ、どうだろうね』

はぐらかされたので真相はわからない。

当然目の前の料理もどこから出てきたのかわからないけど、びっくりするくらい美味しかった。どこかの郷土料理なのか見たことのない物ばかりだったけど、なんだか懐かしさを覚える優しい感じで、どれも胃に負担のかからないあっさりとした味付けになっている。
病み上がりの自分への気遣いが感じられた。

そんな優しさいっぱいの料理をまたひとつ口に運ぼうとして、ふと視線を感じる。
テーブルを挟んで向かいに座るヒソカがいつも通りのにんまりした笑みで私を見ていた。

「ヒソカは食べないの?」
「食べてるよ」
「そう?」
「うん」

と言いつつ、視線は私に向けられたままだ。
え? な、何? 気になって食べにくいんだけど、もしかしてがっついてるように映ったとか?

「明日の事だけど」
「ん?」
「デートしようか」
「でッ……!?」

突然の申し出に目を丸くする。危うく飲んでいた水をはき出しそうになった。

「ククク、大丈夫かい?」
「だ、だいじょうぶだけど、急にどうしたの?」
「せっかく動けるようになったんだし、服でも買いに行こう」
「服?」
「何着かあった方がいいしね」

そういえば飛行船に乗ってからというもの、私はバスローブ一枚の生活だ。私服はクリーニングに出されているらしいのでずっとこの姿だった。
確かにいつまでもバスローブというわけには……

「……ん?」

そこでついに、私はある事実について思い出してしまう。
飛行船に運ばれたその日から自分がバスローブ姿に変えられていたということは……一糸纏わぬ姿を見られたに違いない。

という激しく目を背けたい現実が今更になって襲いかかってきた。
最初に目が覚めたときはヒソカのことばかり考えていたからいつの間にか記憶の彼方だったが、今は違う。

……地面に倒れ込んだ上にブーツも土塗れだったし、ぬ、脱がされるのは仕方なかったのだろうけど。

い、いやいや! ヒソカが脱がしたとは限らない、お、おお女の人の船員さんが整えてくれたのかもしれないじゃないか!

「……知りたいかい?」

これがまた絶妙なタイミングで、今度は喉の奥から食べた物が出てきそうになった。
ヒソカはそれはそれは楽しそうにからかうような笑みでもって私を観察している。

あ、悪趣味だ!
前から思っていたけど、ヒソカは何故か私をからかって遊ぶことが多い。
しかもネタが微妙に恥ずかしいことばかりである。
加えて先日気づいた変わった趣向。

くっ……へ、変態め。

心の奥底で、私はこっそりと悪態をついた。
わたわたしてるとヒソカの思うつぼだ。ここはなんとかやり過ごそう。

「なんの、こと?」
「ククク、さあね」

私がとぼけたせいかヒソカにとぼけ返されて、結局答えは闇の中となった。
というか。

「くっくっく」

私が内心で悪態をついた辺りから妙に嬉しそうだ。
もしかして喜んでる、とか?

「ククク、そんなわけないだろう? あでも、警戒されるっていうのも悪くないね。嫌がって逃げるキミを捕まえるのも楽しそうだ」


――間違いなく変態でした。



その日の夕食はとても美味しかったけど、途中からどこに入ったのはわからなかったのが残念でならない。





「……じゃあ、お休みなさい」
「おや、一緒に寝ないのかい?」
「……隣の部屋、あるから」
「ふーん」
「な、なに?」
「なんでもないよ。寂しくなったらおいで」
「こ、子供じゃないんだから」


なんて言ったのはどの口だ、と自分を叱咤したのは翌朝ヒソカのベッドで目覚めたときのこと。





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