ジョイント・リサイタル


バカだバカだ大バカだ!嬉しくてつい秘密の場所を教えちまった!まだ復讐者じゃないって確証も得てないってのに……!ステラと面識があることは遅かれ早かれ気づかれるだろう。彼女が狙われる可能性は……いや、危害を加えることはできない。大事な高額商品に傷がつくなんて店の人間だって許さない筈だ。

初めの数日間は警戒を怠らなかった。だがオーロという少年はいつまで経っても大人しいまま、離れた場所でただ黙って聴いているだけだった。せっかく話しかけても短い言葉で返してくるのみ。会話はすぐに途切れる。目的は本当に聴くことだけの様だった。




「あいつ、おれのファンだって言ってた割にはおれが話しかけても全然嬉しがらねェし……よくわからないんだよな」
「あら、あなたが歌ってる間はうんとかわいい顔して笑ってるわよ?」
「は!?」

「笑ってた……」
「ね?」

年下の筈なのに大人みたいな落ち着いた笑い方をしていた。今まで周りにはいなかったタイプだ。本当のファンなんだと気がついた。今さらになって顔に熱が集まってくる。ファン二号として認めてやらんこともない。

「あの子の足、生まれつきなんですって。詳しいことはわからないけど、苦労も多かったみたい」
「何でそんなこと知ってんだ?」
「最近よく話してるの。あなたが来る前に、二人で」


………………。


「いいか、最近ステラと仲良くしてるようだけどな、ゼッタイ彼女に惚れんなよ!」
「ツバとんだ」
「聞いてんのか!?」
「心配しなくても、俺だって馬に蹴られたくはない」

急に何なんだと冷静に問いかける声。そういうところがムカつくんだよ!




今まではカネでつくった友達ばかりだった。ギャンブルに負けて人買いに連れていかれそうになったとき、長年つるんでいた奴らにまであっさり見捨てられ友情なんて脆いものだと知る。そんなのもう要らねェ、ステラだけで良いと思っていたところに現れた、松葉杖の少年・オーロ。

あるとき風邪で三日も寝込んじまったとき、オーロはわざわざ家をさがして訪ねてきてくれた。心配したステラに頼まれたからだと言っていたが、治安の悪い地区にまでボロボロになりながらも食べ物や薬まで届けに来てくれたんだ、奴自身のやさしさだとわかる。テゾーロの為に買ったものだからと、奪おうとする奴らから必死に守ったらしい。
オーロの素性は何もわかっていない。どうやって生活しているのか、どこに住んでいるのか。こんな良い薬を買えるカネの出所も。けどもうオーロが何者かなんてわからなくても良かった。

大好きな歌を必要だと言ってくれたことが何よりもうれしかった。それだけでいい。初めてカネ以外のもので繋がった友だった。


「辛くないか」

昼も夜もこんな体がボロボロになるまで働いて。オーロが問う。「辛くなんかない」嘘ではなかった。確かにキツイと思うことだってあるが、それでもこんなにも毎日が充実して感じられるのは生まれて初めてのことだった。その答えに、「そうか」オーロが静かに相槌を打つ。

「テゾーロ……もし今すぐ大金が手に入るなら、君は嬉しいか?」

――……まったく、何考えてやがるんだか。うまい話には裏がある。カネはそんな簡単に手に入るもんじゃないと今ならわかる。もし何かしでかそうとしているなら乗らねェし、オーロにもしてほしくはなかった。そこには必ずリスクがつき纏うものだから。

「ステラが、嫌がるんだ。汚ェことしようとすっと。だからおれは、真っ当なカネで、堂々とステラを買う。自分で稼いだカネで助けるから意味があんだよ」

だからおまえも、余計なことは考えんな。願いも込めて釘を刺す。オーロに伝わったのか、どこかほっとした声で頷いてくれた。

「それにしても……ほんっと謎が多いよなおまえって。どこ住んでんだ?」
「ちきゅう」
「オイ」
「テゾーロはどこに住むんだ」
「……あ?」
「彼女を買い取った後。二人で住むんだろ?というか結婚。この町、でてくのか」
「バッ!?おま……!ケ、ケ、ケッコ……!?」
「ツバとんだぞ」

慎ましやかな生活。安いアパートの一室、でもぜったいに日当たりの良い部屋を借りて。仕事はもちろん歌に関われる職場がいい。初めはステラにも苦労をかけちまうだろうが、ゆくゆくはデッカイショーのステージに立って、彼女だけに捧げる歌を――。いいな。未来に思いを馳せる。夢が膨らむ。きっとそれがいい。こんな吹き溜まりのような町から出て新しいスタートを切るんだ。ステラの為にも。

「オーロも来いよ」
「!」
「そうだ、春島なんてどうだ?」
「……あァ。きっと二人にはよく似合う」
「なんだよつれねェな」



ヒューマンショップの柵の前。ステラと、オーロと、歌の毎日。幸せな時間だった。天竜人が現れるまでのつかの間の幸せだった。


  
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