クロコダイルドフラミンゴミホークスパンダムクザンサカズキ

手なら尊敬。額なら友情。
頬なら厚意。唇なら愛情。
瞼なら憧憬。掌なら懇願。
腕と首なら欲望。
それ以外は、みな狂気の沙汰。
―フランツ・グリルパルツァー『接吻』―





■クロコダイル/腿の付け根
(インペルダウンのクズ看守)

ちり、と皮膚一枚つねられたみたいな痛みが走って見下ろせばすっかり牙を抜かれた元七武海の猛獣が腿から口を離している所だった。
「何してんの?」
最初に連れ出したときから手応えないなあと思ってたけど、そんなところにキス?しっぽまで振ってしまうの?
「借りは返す──その印だ」
殺気を孕む鋭い目に心臓を射抜かれ笑みがこぼれる。それでこそLEVEL6。腑抜けた獣じゃあ愉しくない。
「退屈地獄から救ってあげてる俺にワニの恩返し?────ほら、やめていいなんて言ってないでしょ。俺がイくまで頑張らないと」
ほらほら、と黒髪にゆびを埋めて脚と脚のあいだへ誘った。お前ら虫ケラの価値なんて世の為人の為がんばってる人間の玩具になるくらいしかないんだよ。


「何してる──。やめていいなんて一言も言ってねェだろ?」
喉の奥まで突かれて何度も嘔吐く。おかしい、虫ケラは虫籠から出ちゃいけないのに。何かの間違いだ。鉄壁のインペルダウンが。こんな事あっていい筈がない。
「それでいい。徹底的に抗ってみせろ。甚振って甚振って──ポッキリ折れたとき、楽にしてやる」
この、社会のゴミが。




■ドフラミンゴ/へその下
(取引先の若頭/身長差1m以上)

「んっ……はぁ……」
「…………………………おい」
「っ……、何だよ……さっさと動けよ鳥野郎」
「──相手は誰だ?」
「は?」
「最後におれ達が会ったのはひと月前だ」
「それが何だよ」
「……もう一度訊く。相手は、どこの、どいつだ?」
「ざけんなよ、この状態で何の話────ッひ!?い、だ……っ」
「言わねェんならそれでもいいがな」
「なに……っんの糞ピンク鳥!糸解けよ!これじゃイけねェ────あっ?!い゙ッ、ぁ、待っ」
「先っぽだけでひんひん啼いてやがった奴がよくもまァこれだけ咥えこめる様になったもんだよなァ?オイ」
「っが、ちが、ぁ──っぐ!〜〜〜ッ……!やめ……っ話、聞け……!」
「名前は──?」
「だからっ、して、ねェって……!他の奴とか……!」
「………………」
「んぎ!?ぁっ、なんで、ん゙っ!ん゙ん!」

「やだっ!やらって!ミンゴ、ミン、ぁあッ!あ゙っ、あ゙っ、い、っムリ……も、お、イぎた……!〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!ひ、ぐ」

「てめェのデカ摩羅入れんのどんだけ大変だと思ってんだよシね!」
「フッフッフッ……!いつ来るかもわからねェ男の為に毎日健気に準備してたァなァ」
「毎日じゃねェよシね!てめェの為でもねェよシね!じぶんの体の為だ!合意の上とか勘違いしてんじゃねェぞ糞が!」
ドフラミンゴは大層ご機嫌な様子でわずかに膨らんで見えるナナシの下腹部へキスをした。──途端、ナナシの体がはね上がり騒がしかった口がとざされる。余韻による肌の刺激への弱さとは異なると直感したドフラミンゴは、そういえばここにはツボがあったなと記憶を掘り起こし、口角を上げた。
「噂によると……メスの素質がある奴ならここを押すだけでもイケるって話だ。試してみるか?」
「……?!冗談だろ……?ジョーカー……」
「フッフッフッ!」
返事代わりに、指を押し込んだ。




■ミホーク/爪先
(城の同居人?)

「足をどけろ」
「何も聞こえなーい」
「? 聞こえているだろ?」
「聞こえないったら聞こえないー!」
「聞こえているではないか」
「言葉通りに受けとるなバカ!」
ヒューマンドリル一匹すら倒せない雑魚ですが何か?ジメジメした暗〜い城で一人ぽつんと放置されると寂しいんですよ。独り言ばっか増えるんですよ。なのにミホークはすぐ出かけるし、帰ってこないし、連れてってくんないし……。だからソファに座ってたミホークの横に寝ころがって奴の膝に脚のせて立たせないように繋ぎ止めてるところ。ま、どうせこいつが本気で出かけたくなれば力では叶わないんだけど。せめて滞在時間くらいは長引かせたいじゃん?
「!」
雑誌読むフリして視線をガードしてたら、足を掴まれた。一応靴は脱いであったんだよね、汚しちゃうかもしんないし。だから足の甲を指先でさわさわ摩る様に触られると靴下越しとはいえ、
「くすぐったい」
身を捩る様にちいさな動作で奴の手から逃げる。これでどかそうって魂胆だったんだろうけどそう簡単には諦めてやらない。雑誌読むフリを続行したら、間をおいてまた掴まれる感触がした。今度はさわさわとはされないから、若干気は逸れるけど放置することにする。
────ちゅ。
「ッ!?」
片足を曲げさせられて、雑誌からはみ出た視界に、爪先へキスをかます変態が見えた。
「なっ、に、変なことしてんだ!」
「していない」
「した!いま、足に、ちゅーしやがった!」
「そうだが?」
「認めんのかよ!?だったらなんで一度否定したんだよ?!」
「“変なこと”はしていない。お前はおれに構われたがっていると思ったが──。ちがうか?」
カッとした眼力強い目には疑いとか迷いとか自分の判断がまちがってるという思考が一切ない。逸らされない視線に堪えきれなくなって、雑誌を両手で持ち直し力いっぱいに振り下ろした。
「ち、が、わ、ねェよ!バァーーーーカ!」
「なぜ叩く……?いやなのか?いやではないのか?」




■スパンダム/足の甲
(元諜報部員で同年代)

角膜損傷により両目がつかえなくなった僕は諜報部員どころか指南役としても役立たずとなり、様々な機密をかかえた身の行く末といえば処分ゆきだろうかと沙汰を待っていると──迎えに現れたのは、幼馴染のスパンダムだった。

「あちィ!」
「ああ!すまないスパンダム、また熱々のコーヒーを持ってきてしまった」
「いい加減おぼえろナナシ!湯気がででるうちに持ってくるな畜生!」
「ほら角砂糖」
「ン!」
素直にあけられた気配のする口腔へ一粒ほうりこめば患部に押し当て溶けるのを待つ司令長官。おとなしくなった彼に可愛いなあと感想を抱きながらこぼれたコーヒーをふきとりカップを回収して中身を入れなおしに給湯室へ。失明したとはいえ明暗やおおよその形は感じ取れるので鍛えられた五感を活用すれば彼の身の回りの世話くらいわけないことだった。
「師範、コーヒーなら私が」
「ん……?その声は、カリファか。いいんだよ、彼の面倒をみるのは昔から好きなんだ。それに僕はもう師範なんて呼ばれる人材ではないよ。司令長官補佐なんて名ばかりの雑用係なんだから」
「………………」
CP9へ移ってきたときかつての教え子達がたくさんいて驚いた。ラスキーさんの娘もその一人。
「何か言いたそうだね」
去らない気配と向けられる視線にこちらから話しかける。いいよ、言ってごらんと促せばヒールを鳴らして彼女は隣に並び立った。
「ずっと不思議に思っていたんですが、ナナシさんは今のお立場が耐え難くはないのですか?」
スパンダムが部下達から敬われていないことを知っている。表向き従っていようとも腹の内では上司の器ではないと見下されているのだ。
「拾われた恩があることはわかってますが……」
「僕は彼のことが“大好き”だよ。此処にいる“誰よりも”──、ね」
何も返ってこなくなったカリファを置き捨てスパンダムの許へもどる。
「あちィ!」
「ああ!すまないスパンダム、またまた熱々のコーヒーを持ってきてしまった」
「だーかーらーッ」
「ほら角砂糖」
「ン!……お前わざと火傷させてんじゃねェのかァ!?おれをバカにしてんだろ!」
「とんでもない!」
「だったら──“証拠”を示せ」
低くはっきりとした声。とある“合図”だと悟る。彼の傍らにひざまずき彼の足をすくいあげ“いつもどおり”その甲に喜んで口づけをした。これは恭順の所作。スパンダムの遊び相手、守役、護衛役として過ごしてきた僕が彼を変わらず大切にしていると示すふたりだけの儀式のようなものだった。
「ワハハハハ!お前はほんっとうにおれが大好きだなァ!」
笑うスパンダムにつられて口もとがゆるむ。周囲は理解できないという態度で僕を見るが──僕の目に映る彼は輝くばかりに美しい≠フだ。

僕は幼い頃から『空っぽ』だった。地位や権力やお金に価値を感じられない。清貧であれ、なんて理念を持ち合わせているわけでもなく『人間世界』そのものに興味がわかなかったのだ。不満もなければ慾求もない。他者からの承認も愛情も必要としない。生きる目的と呼べるものがない人生。幸いにも役目という名のレールは敷かれてあったので望まれるままに作業をこなせばそれでよかった。そんな僕は肉体を形作られただけの『人形』とあらわすにふさわしい。空っぽであることへの悲観はなかったもののせっかく人間として生まれてきたのに味わいきれていないなという思いが常にどこかにあって──。
一方スパンダムは人間らしい人間≠セった。
正直な心が美しいなら彼は並はずれて美しい。どんな犠牲も厭わない。良心の呵責などなんのその。幼い頃から野心にあふれ目的の為なら手段を選ばない性格をしていた。彼自身には特別秀でた能力があるわけでもない。けれど純粋な思いだけを追いかけ自らの為だけにどこまでも邁進していく力がある。その慾≠ヘ太陽のごとく無限大のエネルギーに満ちあふれて見えた。

僕は自分が処分されるかもしれないとなったとき生きることへの執着すらない事実に気づいて愕然とした。あまりの生き甲斐のなさに我ながら呆れかえったものである。やはり自らの命を大切にできるスパンダムはこの世に生を受けた者としてのお手本であり愛すべき人間≠ネのだとしみじみ感ぜられた。
「これからもずっと傍にいさせてくれないか、スパンダム」
「……!! ……ったく、……仕方ねェなァ。お前にはおれがいないとダメだもんな!」
────慾をもち、けっして躊躇わず、いつも貪婪にかがやいている。そういうものに、僕はなりたい。

(失明はロブ・ルッチとの事故≠ノよるもの)




■クザン/爪先
(若クザンとその上司)

優しいという言葉が果たして軍人にとって褒め言葉になり得るのかどうか疑問に思うところではあるが、荒くれ者に立ち向かえる根性が必須となる組織の中で、彼の性格はやはり優しいのだとクザンは思う。
「グニョンっていう感触が生々しくて。ぽきん、って折れる感触も混じるんだよね」
「踏み歩いてく感じですか」
「というより、ワインのぶどう踏みかなァ」
「……エグいですね」
「エグいよー?」
入れ直してきたお湯の入った桶に彼の足をつっこませ跪いて洗う。汚れなんて付いていない皮膚を念入りに洗ってやる。本人にやらせては、ピンクの肉まで見えるようになってしまうので。
「今度夢見が悪かったときは、すぐにおれのこと呼んでくださいよ」
「どうして?」
「すっ飛んできます」
「おー。クザンくんが寝かしつけてくれるの?」
「絵本とか読みますよ。唄、歌ったり」
「あはは、俺を何だと思ってるの」
でも唄はちょっと気になる、と呟く彼の爪先に丁重にキスをする。声が止んだ。視線をまっすぐにナナシへと向ければ、男は雨晒しにされた石像のように寂しげに笑んでいた。
「君はすこしフィルターをかけすぎてる。優しい人間は、ここまでのし上がれない」
──だとしても、おれはあんたの部下になれて良かった。




■サカズキ/つむじ
(副官で恋人)

な…何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…という程でもないがふつうにビックリした。知らない少女に「わたしのワンちゃんかわいいでしょ!」と着飾ったタヌキを見せられたときくらいビックリした。しかも名前がカメだった。頭がどうにかなりそうだった。
それはともかく。
「大将、今、キスしませんでした?」
感触がした頭頂部ちょっとうしろを手で押さえながら、背後に立つ上司をまんまるな目で見上げる。人気和菓子店の行列に私服でならんでいる最中のことである。
「何を言うちょる……」
「あの、後ろのご婦人すみません、今この人がちょっと体を前のめりになど……」
「じゃかァしいッ!」
殴られた。横暴だ。頭をさすりさすり前に向きなおる。前後のままでは落ち着かなかったので、摺り足でじわじわとサカズキの隣へ移動した。
「今、したでしょ」
「じゃかァしい」
「頭」
「黙っちょれ」
「つむじ」
「黙れ言うちょるんじゃっ」
大きな手で頭をガシリと掴まれる。痛い痛い。これじゃあおれの方が悪さしてるガキんちょみたいじゃないか。
「外でイチャつきたくないって言ったのそちらなのに……」
「………………」
サカズキの耳までにしか聞こえない独り言をつぶやけば、指先による締めつけは弱まった。そっと横顔を盗み見れば、おれの指摘にはもちろんおぼえがあり、だからこそいちばん驚いてるのは他の誰でもないサカズキ自身であると示しているような、頭の中で起こっている混乱をどうにか秩序立てようとしている──第三者が見れば鬼のような形相でしかない恋人の顔がそこにはあった。
(……思ったより愛されてるっぽいなァ、おれ……)
茶請けの菓子を買いにいく部下が「遅い」「サボりとはいい度胸だ」などと大声で詰られているのを見かねて、だったらその銘柄入手するのがどれほど大変か自分の目で確かめてみればいいじゃないですか、と連れてきた本日。オフの日とはいえ、この説得に乗ってくれたこと自体奇跡にひとしい出来事だったのかもしれない。おれの企みとおなじ気持ちでいてくれたら、なおさら愛しいのだけれど。『お外で堂々デート』。
(────ちゅ)
頭にのっていた手を唇まで寄せたらものすごい勢いでひっこめられた。半歩下がられたので引かれた?と心配したけれど、マグマをぐつぐつ煮立たせているサカズキを見れば杞憂であることは容易に知れた。


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