日翳の午后 !性的表現あり



すれ違う際、ナナシの手の甲をかるく引っ掻いていく。ナナシは振り返ることもなければ疑問の声をあげることもなく、右の耳朶を3回揉む仕草をして、何事もなかったかのようにクマドリとの会話をつづけていた。うっすら赤くなるその耳に、自然と口角もあがっていく。



木陰にもぐり込んだ様な薄明りの室内に、裸の男が二人。

「────よく濡らせ」

揃えた中指と人差し指を、息の乱れはじめているナナシの口内に挿し入れた。

「ぁ、ふ……、……」

弾力のある舌を押しのけ、下の歯列の内側に沿って指をすべらせれば、たちまち唾液が溢れ、薄い唇からだらだらとこぼれ落ちていく。構わず舌の表面を撫でるように指を根元まで押し込めば、その手を制止させようとするわずかな抵抗があり、目の球面に水の膜が張った。短い嗚咽。十分に湿ったと判断し指を引き抜けば、ぬめった舌と共に透明な糸がついてくる。ぷつん、と糸が切れ、ナナシは顔を背けて数回ほど咳き込んだ。のどを押さえながら、潤った目が疑わしげに睨んでくる。

「けほ、コホ、っ、……、……あの、ルッチ……なんだか、回を追うごとに、いじわるになってません……?」
「お前が望んでる事だ」
「……? 何、言って……、──……っ!」

指先を下の穴に添えるなり、唾液のぬめりを使って窄まりの奥へとねじ込んだ。ほぐす前とはいえ、定期的にひらかれているそこは難なく指二本をのみこんでいく。それどころか中の柔い襞は、侵入者を歓迎するようにねっとりと絡みついてきた。ぐちゅぐちゅとわざと大袈裟に音を立てながら、肉を掻き分けるようにして抜き差しをくりかえす。

「んっ、……っ、ぅ、く、…………っ」

一枚一枚、薄皮を剥くように理性を剥がしていく。そんな愉しみを見出だす関係になったのは、比較的最近のことだ。


任務先の宿泊したホテルで偶然、ナナシの自慰を目撃した。前ばかりでなく後ろの穴も使った行為で、これまでひた隠しにしてきたであろう性的指向を窺わせた。かちりと目が合い、「近くで見てもいいか」と声が出る。無意識だった。理由はいくつか考えられるが、集約すれば好奇心≠フ一言に尽きるだろう。ナナシもナナシだ、呆れた調子とはいえ「勝手にすれば」と答えるとは。あれでいて、内心はかなり動揺していたのかもしれない。
はじめて見る男の穴を使った行為に、嫌悪や軽蔑よりも、目の縁を熱くさせられた。そのまま手を出す結果となり、以来この関係は続いている。利害が一致したというのもある。相手を見つけることが難しい寂しい体と、避妊やその他の後腐れを気にしなくていい割りきった関係を望む者。表向きは変わらず同じ組織の同僚、裏では性処理という名目のもと何度か身体を重ねた。

ただ、今は、この男の正気をどこまで失わせていけるか。そこに対する純粋な興味が理由の大半を占めつつある。



「は、はぁ、っん゙……ぉ、ねが、……」

ベッドの上、壁に両手をつかせて膝立ちをさせ、ナナシが射精しないよう根元を指で締めながら後ろからゆるやかに突き上げる。すでに熟知している泣き所を何度も擦りながら、決定的な刺激は与えずにいた。焦れったそうに、腸壁が奥へ誘い込もうと蠕動している。

「何か、言ったか?」

聞こえなかったふりをして背中を丸め、玉の汗が浮くうなじや首まわり、肩甲骨に唇を落としていく。熱を帯びた肌が敏感にふるえる様に笑みがこぼれ、不意打ちで奥を突いてやった。

「んッ!ふっ、……っ、ふぅ、……っ」

痙攣するように戦慄いた肉を味わうと、密着した腰をゆっくり引かせていく。理性をつなぎ止めようと唇を噛む姿は、可愛いげがあるようで、苛立たしくもあり。

「つらそうだな」
「……指、……放して……っ」

陰茎に絡みついてくる内壁が外気に触れるところまでめくれ上がり、ぬらついたピンクを覗かせていた。淫猥な光景に目の奥がカッと火照り、亀頭の半ばまで抜けたところで、ふたたび熱をめり込ませる。

「んン゙ッ!?んッは、はー……っ、は、ぁ……────ッ!!ぁ゙、ぃ、ん!、んっ、ん、」

翻弄されながらも気力で体を支え続けるナナシに、早く音を上げてしまえと呪詛をかける。簡単に堕ちたとして、それは才あるCP9の一員にはふさわしくない姿にも思えたが、だからこそ引き摺り出してやりたいギャップともいえる。おもむろにナナシの腹筋へと手のひらを這わせ、上半身を抱えるように腕をまわした。そうやって胴を固定させると、すっかり蕩けて形を変えた穴をさらに押し広げるように、幾度となく穿つ。

「ッ!ふぐっ、ンっ、んん!ッ、──!」

ナナシの手が、射精を阻む指に縋りつくように覆い被さった。力ずくでどかそうとしない様子は「許し」を求めている。────そういうところが、追い詰めたく、なるのだと。

「っん、ぁ、?っぁ、なに」

手を腹から顎へと移動させ、堅固な唇を割りひらき、歯が閉じられないよう親指を差し込んだ。ふだんとは比べ物にならない艶を含んだ声は、広い部屋中にだだ漏れとなる。羞恥を掻き立てられてか、後孔がきゅっと締まった。危うくもってかれそうになるもどうにか留め、ナナシの腰を引き寄せることで挿入する角度を変え、律動を速めていく。

「い、っン゙、く、なんぇ、っ、ぁ、ひ、い゙きっ、あ゙!ッひ、ひん゙、ぁ゙、ぁ゙あ゙ッッ、〜〜〜〜〜〜〜〜……ッ!」

輪をつくる指に圧が掛かったが、けっして力を弛めることはしなかった。そのうちナナシはびくびくと爪先から天辺までを痙攣させ、喉を反らして天井を仰ぎ見る。しばらく口をあけたまま、はくはくと声にならない息を吐きつづけていた。涙の筋が目のよこを流れ落ちていく。自我がすとんと抜け落ちた様に、放心していた。
────……強ばっていた体が弛緩していく。上体は壁へしなだれかかり、脚は腰を支えられていたお陰でわずかに形を崩すにとどまった。ぜえぜえと整わない呼吸を繰り返すナナシに、手を鳴らして意識をこちらへ向けさせるように、腰を、打ちつける。するとはっと我に返ったナナシの頭があがり、ぎこちない動きで後ろを振り向いた。下はまだ萎えることなく繋がっている。ぼんやりとした焦点の定まらない瞳に、怯えの色が滲んだ。

「ぁ……ルッチ…………」
「────気を遣るなよ」

爪が食い込むほど強く掴んだ腰が、歓喜の悲鳴をあげていた。


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