ハッピーバースデー!青雉 


「人を見る目はある方なんだ。きみはこれからも出世しそうだからねェ」

軽薄そうな奴、というのが最初の印象だった。
スイスイと出世していく若造に親しげに近づいてくる先輩の種類は二つ。面白そうな奴だどれ構ってみるかと好奇心に突き動かされてくる人と、今のうちにゴマをすっておくかと自己保身に忙しい奴。自ら後者であると明かしながら話しかけてきたその人は、クザンがすげない態度を取り続けてもなぜか笑みを絶やさずにいた。「どうすれば機嫌を取れるかなァ」「あ」「そういえばもうすぐクザンくんの誕生日だって聞いたけどワインって飲む?」なんて。もはや独り言にしかなっていない会話を続けて、一方的に約束を取りつけて、当日彼は本当に箱に詰められたワインを手渡してきた。正直、貰う義理もないのにこんな物を贈られても、と困惑の溜息しか出てこない。

「ゴマすりも大変ですね」

思わず零れ出てきてしまった言葉だったが、後悔の念はわいてこなかった。

「ま、どうせ一時的なもんなんでしょうが」

我ながら可愛げのかけらもない後輩だと思う。先輩の笑みも消えていた。これでプレゼントも受け取らずに済むかな、なんて思いながら反応を窺ってみれば、きょとりを目を瞬かせたその人は次の瞬間にはまた普段の笑みを取り戻していた。

「それじゃあ毎年祝いに来るよ」
「…………………………は?」

怒るか黙って去るかの二択だと思っていたところのそれに、思考が止まる。

「改めておめでとう、クザンくん」

結局そのプレゼントは受け取ることになり、ワインに罪はなかったので中身も飲み干す羽目になった。そういえば毎年と言ってたが、あいつまさか来年もまた何か渡しに来るつもりじゃ。いやまさかな。たかがゴマすりの為にそんな。所属だって違うんだし元々接点も少ないんだから一年もすりゃ忘れてんだろう――。そんな思考を巡らせたことすら忘れていた頃、彼は再びリボンの結ばれた箱をもってクザンの前に現れたのだった。

「お誕生日おめでとう、クザンくん」
「…………」
「あ、驚いてる。毎年来るって約束したからねェ」
「遠征に出たばっかなんじゃ……」

え?と不思議そうな顔をされ、しまったと後悔する。案の定「どうして知ってんの?」と訊かれた為、そっちの上官に用があったが遠征で不在だと言われたので。と尤もらしい嘘をついておいた。本当のことなんて口が裂けても言えない。まさかクザンが一週間前にあの口約束を思い出し、頭の隅で気にかけ続け、遠征の情報を掴んだ際にはちょっとばかし落胆してしまっていたことなんて。『いやいや、果たされようが果たされまいが別にどうでもいいでしょ』と自分に言い聞かせながら今日という一日を過ごし、顔を合わせた今、実は気分がわずかに上を向いたことなんて……絶対に教えてやらない。

「どうしてそんなに構うんですか」

遠回しな拒絶などではなく、純粋な疑問だった。今まで離れていく人間ならいくらでもいた。そうなって当然の態度をとっていた。目の前の彼にだって同じ様にしていた筈、なのになぜ、と正直にぶつければナナシさんは何だそんなことかとでも言う様にゆるゆると笑った。

「俺は“独りでも構わない”ってオーラ出してる奴に構いたくなる、究極のお節介さんなんだよ」

なるほど、確かにそれはクザンにも当て嵌まる条件だった。

「ナナシさん」
「ん?」
「ありがとうございます」
「おう!」
「それと、ありがとうございます」
「なぜ二度言った?」
「去年言い損ねたんで」
「はは、律儀な奴だなァ」

律儀って言うのかこれ。……まァいいや。来年は一緒に飲める店にでも連れていってもらおう、なんて、プレゼント片手に気の早いことを考えていた。


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