謝ってそれきりなんて許しまへん !性的表現あり



なぜあの男はあの様におモテになるのか。とんとわからぬ。一番隊隊長という肩書きの力だろうか。不死鳥という実のモデルのお陰だろうか。この謎は本日より白ひげ海賊団七不思議の一つとする。

正直さ、俺だって今でも見惚れることあるよ。あいつの飛ぶ姿。まるで下界へ舞い降りた神の御使いのごとき輝き放ってるじゃん?はい今笑った奴ー。手加減?んなもん海賊に要るかバカヤロウ。とにかくよ、言い寄ってくる女性みんながあの姿を見たことがあるだなんて思えないだろ?だったらマルコなんて後頭部ハゲの冴えないオッサンでしかない筈だろ?なのに何で隊長達の中でも一等モテるのかね。若い子にまで。下手すりゃ親世代のおっさんなのに。べっつに俺の気になってた娘がマルコの方行ったから僻んでるとかそんなんじゃねーぞ。え?何、かっこいい顔してる?…………え、ちょ、マジで??ナースちゃんが言ってた???いやいやいや顔はないだろ顔は!髪型含めてそう呼ばれていいモンじゃないだろありゃあ!ん?…………半目の人は出来るヒト?いやいやいやいやあんなんただの徹夜続きでやつれただけみたいな酷い目じゃん!俺だって眠くなりゃ薄目にくらいなるやい!そういやマルコの目って前に考古学者だっていうオッサンに見せてもらったアレに似てるんだよな。なんだっけ、アレだよアレ、ほら……。土偶。

「言ってくれるねい」
「ぎゃっ!いつのまに……!?」

一緒に大笑いしていた仲間達はちょっと意識を逸らしている間にきれいさっぱりいなくなっていた。あいつら覚えてろよ!殴られた脳天をさすりつつ、今は同じお一人様となったマルコをねめつける。

「……いいのかよ、あの子達ほっぽらかして」
「今日はそういう気分じゃねェよい」
「えー。久々の上陸で」

好みの子がいなかったんだろうか。いまだ熱い視線を送ってくる女性達(右端の明るい子好みなんだよなー)を一瞥すらしないこの男に、モテる奴の余裕を見せつけられているようで大変癪に障る。不満がわかりやすく顔に出たんだろう、こっちを向いたマルコがにやつきながら氷の入ったグラスを傾ける姿を見てさらに腹が立った。

「こんな男の!どっこが!いいんだかね!」
「分かるんだろい」
「何が?」
「金たんまり持ってんのと、夜を楽しめる匂い」
「…………」

島に長くは留まらない人間、しかも海賊だとわかっていながら誘ってくるような女性の大半は、それを生業としているか、一夜限りの火遊びを楽しむのが目的だ。出会いが酒場ともなれば尚更。とはいえそれを自分の口から当然の事実の様にのたまう男に、もはや嫉妬を通り越して感心してしまう。

「だったら……だったら俺だって!金はぼちぼちだけどすっげェ優しくしてあげんのに……!」
「優しいと上手いは違うだろい」
「いいや!俺のモットーは優しく、楽しく、気持ちよくまでだし!女の子とはいっつも明るく笑顔でお別れできてるもんね!」
「は、ナナシが言うとママゴトみてェだよい」

カッチーン…!と頭にきてしまったのは、決して俺の気が短いというわけではなく、マルコがいけ好かないのと大分酔いが回っていた所為だろう。

「おいマルコ……どの子か誘って三人でヤろう」
「…………は?」
「で、その子にどっちが良かったか判定してもらうぞ!いいな!?オラ立ちやがれ!」
「いつ勝負なんて話に、……おい!誰も乗るなんて言ってねェよい」
「はっはーん一番隊隊長様ともあろうお方が〜〜しっぽ巻いて逃げるんですか〜〜?ハッ!さてはマルコさん……実は糞下手だったりしちゃいます?あれ?そういえばモテてらっしゃる割に夜お一人でモビーにいること多くないですか?あっれれ〜〜??おっかしいな〜〜〜〜どうしてかなァ〜〜〜〜〜〜??何か裏でもあるのかなァ〜〜〜〜〜〜???」

カッチーン…!と、マルコが頭にきてしまったのも、きっと見た目よりもずっと酔いが回っていた所為だ。いくら俺がマルコを焚き付けようと渾身の憎たらしい顔をつくっていたとはいえ、こんな安い挑発に乗ってくるような単純な男ではなかった筈である。

「どっちが上手いかで白黒つけてェんなら、もっと手っ取り早い方法があるよい。一人に判断を託したところでナナシは納得しねェだろい?」
「何その俺が負ける前提な感じ」
「おれの案なら一回で勝ち負けをちゃんと認められる。……どうだ?降りるんなら今だよい」
「あーん?乗ってやろうじゃねェの」

或いは、マルコの踏み入ってはいけない領域へ踏み込んでしまっていたのかもしれない、と思う。







「――――マル、コ、んぁっ」

かつて出したことのない音域がひっきりなしに喉から溢れでてくる。自分の声なのか甚だ疑わしい。正常な頭であれば舌を噛み切りたくなる所なんだろうが、アルコールと快楽でどろどろに溶けてしまっている今は下腹部から伝わってくる熱の事で一杯だった。

「待、って、ル、コ」
「っ……ナナシ……」

興奮、陶酔、渇欲、寂寥……マルコの薄い目は口よりも雄弁に語る。新人は特に勘違いしやすいが、意外と感情の振れ幅が大きい男なのだ。こいつは。それで、何で、何でこうなってんだっけ。揺れる頭で必死に現実を繋ぎ止める。そうだ確か、勝負をしようと。どちらの方が上手いのかと。でもその優劣は女の子の扱い方に関する事ではなかったか。俺、男のやり方なんか知らないし。土俵にすら上がれないし。そもそもその土俵自体を間違えてしまっているのではないかというお話で。疑問に思うのが遅すぎる?嗚呼、でも――きもちいいし、まあ、いいか。
はじめは制止の為にマルコの名を呼んでいたような気がするが、今となってはよくわからない。前後すら不覚な意識の中、唯一確かな存在であるその名前を呼び続ける。熱いゆびに胸や腹を撫でられると火照りが増して内側が痙攣した。柔らかい肌でもなければ乳房もない。こんな体をまさぐってマルコは楽しいんだろうか?下半身は元気そうだし文句は言わせないが。そういえばこうなったのも全てマルコの提案からだった、ような。そう、多分、きっと、そうだ。

「ぅ、くっ」
「初めてとは、思えねェよい」
「ん、っ、マル、コは」
「?」
「絶対ェ、はじめて、じゃ……ない」

自分の体が組み敷かれる側に適していると言われた様な気がしてそんなバカな!自然の摂理に反してる!と無性に腹が立ったので「そうだろ?」と虚勢を張りながらどろどろの有り様となった責任を押し付けてみる。実際、腰の下にあるクッションや丹念に解された後ろはマルコの気遣いの証なわけで。苦痛から遠くにいられる要因であることに間違いはなかった。それにしても美人ホイホイだったマルコが男を好きだったなんて驚きだ、道理で女性に素っ気ない。いや待て、いつもそうというわけでもなかった……両刀なのか?

「正解だよい。お前に似てる奴ばっか抱いてきた」

聞き捨てならない何かが始まる。

「目や、髪、体型、性格。男でも、女でも……今日はいなかった」
「ん、く」

ダメだ、大事なところなのに視界が眩む。いつもとは異なる感覚で絶頂が近い。胸にこみ上げてくる未知への期待感と少しの不安に呼吸が浅くなる。とりあえずおまえ、最初から勝負するつもりなんか無かったろバカ鳥めと事後罵ることを今決めた。

「――……悪かったよい」

後悔の影を落として見下ろしてくる切なげな目に、気の利いた言葉を返せる余裕なんてありゃしない。マルコの悪い癖だ。恐らくこいつの頭ん中では自己完結へのフローチャートが作られ始めている。普段は頼りになる先を読む頭脳も、こういった意志疎通が肝要な場面では少々考え物だ。なので、罵った後にはキスでもかましてやろうと画策した。負けを口にするつもりは毛頭ない(そもそも勝負になっていない)が、うっかり嵌まりそうな気配を感じる事と、嫌な気はしていない事くらいは伝えてやろう。
優しく楽しく気持ちよくの基本は、素直な心からだ。


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