分かってくれると嬉しいわ 


勿体ない

そのことばが聞こえてきて体が熱くなったのか冷えたのかよく分からなかった。たぶん頭はカッとして、心臓は冷えた。

──そんな美人なのに

恋人が、褒められている。そうですともそうでしょうとも。ロビンは美人だ。たとえ三徹して意識朦朧としている人間だろうと視界の端にちらりと入れるだけで目の覚める様な比類なき美人なのだ。ことばを解する花なのだ。そこに異論はない、けれどもしかし、だがしかし────……彼女の隣に理由なく立てることを、誰よりも不思議に思っているわたしのハートには、つららとなってぶっ刺さる。


「それは、誰にとって?」

彼女の凛とした声。

「誰にとって勿体ないのかしら」

揺るぎない声に、つよい意思の込められた返答に、際限ない愛しさと尊敬の思いが募る。




ロビンに愛の告白をしていた男が去って、ロビンが一人きりになっても、わたしは曲がり角をとびだして行けずにいた。勿体ない。わたしには勿体のない人。前から心の奥底にありながら見ないフリをしてきた感情だ。
彼女の魅力は外見にとどまらない。彼女がふと洩らす歴史の話が好き。知性のにじみでた横顔が好き。かわいいものが好きで、絵がちょっぴり下手で、穏やかに物騒な彼女にいつまで経ってもドキドキがおさまらない。

彼女が大切に思う海賊団は、一時的に解散状態にある。でも約束の日にふたたび集結するのだそうだ。いっしょにいるのは限られた期間だけ。ならちゃんと我慢できる、この想いは隠したままでいよう、と、そう決めていた。コアラやサボといっしょにロビンを囲んでわいのわいのできていれば、それでよかったのだ。
でもあっさりと見抜かれてしまった。しかもミラクルなことに、彼女も同じ気持ちだと言ってくれた。(むしろ同じ気持ちだったからこそ気づかれたらしい。)繋がれた彼女の手が緊張でふるえていると気づいた瞬間。あの瞬間が、幸せのピークだった様に思う。
そのあとは……革命軍のしがない構成員の一人でしかないわたしは、自分に自信が持てなくて、いつだってかんたんに不安と心配に押し潰されそうになる。

ロビンは強くて。賢くて。きれいで。包みこむ様にやさしくて。

そんな彼女に、一体わたしは、何をしてあげられるのか。


「ナナシ?」
「ひょえあい!?」

名前を呼ばれると同時に腰をするりと撫でられる感触があって、変な声を出してしまった。壁からにょっきりと生えている腕と目とくちびる。ロビンだ。ちょっとセクハラだ。よろめいたままの姿勢で地べたに倒れていると、角から本体が現れた。嗚呼、今日も麗しや。

「そんなところで立ち聞き?わるい子ね」
「ご、ごめんなさい……」
「いいのよ。分かってたから」

告白をされたロビンは堂々と言ってくれていた。考える素振りもなく、とても自然な流れで、『もう恋人はいるの。ナナシよ』と。
はじめはなんの冗談ですか?と笑っていた彼も、沈黙を守るロビンに次第に笑顔をひっこめていって。

『え……ほんとう、ですか?』
『ほんとうよ?』

そんな会話を交わして、彼は驚いた表情をして、そうしてポロっとこぼしたのだ。


────そんな美人なのに勿体ない、と。


「……なにをそんなに落ち込んでるの?」

ロビンがわたしの前でしゃがむ。目を合わせられず、砂ぼこりの目立つ床ばかり見てしまう。

「……あの人が言ってたとおり……わたしなんかには、あまりにも勿体ない人だなァって。ロビンは……」

頬にするりと手を添えられた。視線を持ち上げられて、ロビンのすこし眉尻のさがった表情が目に映る。

「そんな顔しないで」

もう一方の頬にも手を添えられて……えっと、あの、なんだかむぎゅっと押し潰してませんかロビンさん?口がアヒルの様になってしまってると思うのだけど、ロビンが変わらない調子でしゃべりつづけるので、なんだか口をはさめない。

「さっきの人が言ってた勿体ない≠ヘ、そういう意味じゃないわ」
「……?」
「あの勿体ないは、あの人を含めた男にモテるはずなのに≠ニいうことよ。でも、そんなのいらないでしょ?……どうしてか分かる?」

はさみ込まれる力が弱まって、口も元にもどる。ロビンは男にモテなくてもいい。それはどうしてか?

「ロビンは、女の子が、好きだから……」
「ちがうわ」
「え?」
「────ナナシ、あなたに見つめてもらえれば、それで充分だからよ」

ギュン。今ギュンってした。

「悲しい気持ちになるから、私の好きなあなたのことを、そんなふうに低める発言はしないでもらいたいわ。……ね?」

ふふっと笑うロビン。わたしは堪らずがばっと抱きつき、その豊満なお胸に顔面をうずめた。

「大好ぎでずぅ……!うっうっ」
「ええ。知ってる」


触れられる手のひらに安堵しながら、固く誓う。
彼女の隣で堂々と胸を張れる、そういう人間に、わたしはなりたい。


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