知恵の実はいかが これのつづき/!軽度の性的表現あり/ステラの外見で下品なことは許せないという方御注意



タナカさんからの報告によると最近ナナシの奇行が目立つという。

例えば、廊下を何かに追われる様な挙動を見せつつ走って往復したり、ベッドの上を円を描く様に前転しつづけたり、謎のダンスをひたすらに踊り狂っていたり。他にも目的のない念入りな準備体操、移動は常にスキップ等々、すべてテゾーロ不在の間に行われている事だという。
彼に許された行動範囲は塔内のプライベートエリアその一角のみ。同じフロアには使用人として仕える奴隷達も幾人か存在するが、ナナシは現在、他の奴隷との接触が禁止されている。つまり誰もいない場所で、たった一人でそういった行動を繰り返しているわけなのだ。あの少年は。
筋肉をつけすぎない様に次見かければ止めておくよう指示したところ、タナカさんの制止を受けたナナシはハシャぐ事を禁じられたと解釈したらしい。それからの行動はこれまでとは対極。真っ暗な部屋のなかで映像電伝虫からは見えにくい物陰に座り込み、毛布を頭から被り、その場を一切動くことなく過ごす時間が多くなったという。正しく奇行だった。

「もしかすると室内ばかりでストレスが溜まっているのかもしれませんね」

なるほど。ストレスか。タナカさんが発した一言に納得してすぐ、最もランクの高いカメ車を飛ばしてナナシを外へ連れ出した。入国時と高い塔の上からしか眺めた事のない街を散策したナナシは、見るものすべてに目を輝かせ息を弾ませていた。
しかしその後も少年の奇行報告が止む事はなく、本人に問い質しても不満を述べる事は一切なかった。


――目にする範囲で変化した事といえば、ナナシは随分と長風呂をする様になった。以前一人で入らせていたときには烏の行水で上がっていたというのに、今では入浴を好む主人よりも長く湯船につかっている。大粒の汗が滝の様に流れる額を見ては「のぼせるぞ」と注意を促すのだが、ナナシは首を横に振るだけでやはり上がろうとはしなかった。

「顔が真っ赤だ。さすがに見過ごすわけにはいかないな」
「…………」

以前気を失って溺れかけた経験のあるナナシは、渋々と言った様子で湯船の縁に手をかけ、火照った体を引きあげる。『引き籠もりによるストレスが原因でないとなれば、やはり“手術”の影響ではないかと』。頭のなかでタナカさんの言葉が繰り返される。見守る先、湯船からでて床に足をついた少年の中心には――真新しい“手術痕”。生まれてきた性別として在るべき性器が、そこには存在しなかった。





困ったなー。そろそろ息子だってわかってもらえる自信がない。

というわけでパパン、ママン、息子の息子は遂にちょん切られてしまいました。しんだときの姿であの世へ行くなら二人ともびっくりし過ぎて二度しんでしまうんじゃないだろうか。それとも大笑いしながら受け入れてくれるだろうか。人ちがいですよお嬢さん、と笑顔でスルーされるに一票。
とまあそんな感じで、新しい環境になってからというもの悩みは一向に尽きませんがその中でもいま一番困っていること、それは――。

めっちゃムラムラする。

笑い事じゃありません。切実です。棹もタマタマも取られたというのにどうすればいいの、教えてエロい人。
とりあえず汗をかけば少しはスッキリする事に気がついたから、無駄に長い廊下をイノシシに追われるシチュエーションで延々と走ってみたり、広いベッドの上をアルマジロになったつもりでゴロゴロしてみたり、思いつきで創作ダンスを踊ってみたりとどうにかこうにか誤魔化していたんですが四日目にしてタナカさんによるストップが入りました。なんでも筋肉質になりすぎてはいけないんだそうです。えー、と不満げな顔をしてみせたら蔑んだ目で見られました。薄々わかってきたけどタナカさんは貧乏人に厳しい。
そんなこんなで残された手段は風呂のみとなった。今のところそれだけで凌いでるんだけど、フラストレーションの溜まり具合と放散のバランスが全くつり合ってない。これじゃあいつ頭がおかしくなっても不思議じゃないぞ。

本当ならテゾーロに相談するのが一番なんだと思う。でもあの人ステラのことを女神かなんかだと思ってそうな節あるから『ステラを穢された!』とかなんとか怒りを買う可能性が高いんだよね。一度ぶちギレた顔も見たことあるし現実味があるんだよなあ。せっかく拾った命を無駄にしてしまうのはさすがに勿体ないと思うわけだ。さて、どうしたものか。

そういえば――ヒューマンショップでこんな話を聞いた事がある。なんでも男の尻のなかには女の子のイイ所とよく似た“気持ちよくなれるスポット”があるんだとか。誠に信じがたい話ではあるものの、今は体のなかで日々蓄積されていくムラムラを本気でどうにかしたいという思いが強かったから、仕方なくテゾーロがいない時間帯を狙って試してみる事にしたのでした。説明おわり。



暗やみに沈んだ部屋のなか。ベッド脇に座り込んで頭からすっぽりとふとんを被り、太腿の狭間、その奥へとひそやかに指をのばす。開発につとめ始めてウン日目。わからないなりに地道にマッサージをつづけた結果、昨日ついにその努力が実を結んだ。
見事、絶頂に至ったのだ。
達成感に浸るよりも前に、頭のなかがまっしろに塗りたくられて、一瞬しか味わえないと思っていた気持ちよさが長いこと全身を満たしている事にとてつもない衝撃を受けた。これは凄い事を知ってしまったぞと興奮した。しばらくの間、心臓のバクバクを収められなかったくらいには。
あの快感をもう一度と今日もまたマッサージに勤しむ。タマがないから精液は二度と作られない。粘着質な音はすべて唾とハンドクリームの混合物によるもので、それもいまは十分な興奮材料になっていた。一度経験すればもう感覚でわかる。いよいよだ。そこまで来てる、もうすぐ、近い、あっ――、――。

……手を止めたのは、扉の開く音と共に部屋を明るくされてしまったから。表面張力でぷるぷると震えるところまで来ていた水が溢れる事なくひっこんでしまう。なんてこと、失敗だ。仕方なく指をひき抜いて立ち上がる。ふとんを被ったまま振り返れば、思った通り入口にテゾーロが立っていた。まだ帰ってくる時間ではなかったハズなのに、なぜ。
何をしていた?と問う声がどこか遠くに聞こえる。下っ腹が重い。熱が燻ったままなのだ。じっと立っていられず、足を擦り合わせながらつい恨みがましい目でテゾーロを睨んでしまった。大股で近づいてきたテゾーロがきれいな方の手首を掴む。少し乱暴だった。足りない物があるなら――、何でも――。ちがう。そうじゃない。早く出てって、それがいま一番望む事だから。もはや言葉が耳に入ってこない。代わりになぜだかテゾーロの下半身に目がいった。

ヒューマンショップで得た知識は“もし男に掘られる事になったら最悪だ”という冗談交じりの会話のなかで耳にしたものだ。そうだ、尻の穴に突っ込むんだっけ。指よりも太くて長い、あれを、ナカへ――。電流に似た痺れが背筋を這いあがる。渇いた喉がごくりと鳴った。風呂場で目にしたテゾーロの裸を思い出して頭がくらくらする。あれにイイ所を擦られたら、昨日よりももっと気持ちよくなれるのかな。

急に抱きついた所為か、驚いたテゾーロは案外簡単にベッドへ押し倒されてくれた。遅れて着地したふとんが二人の体を覆い隠す。肩に手をかけられて説明しろと言われたけど『声』を奪ったのだってテゾーロなのだ。文字盤で一文字ずつ伝える余裕なんて欠片も残ってない。少しだけ体を起こして見下ろせば、テゾーロは目を瞠らせて動きを止めた。俺いまどんな顔してんのかな。よくわかんないや。ごめんね、女神様こわしちゃって。気持ちのこもってない謝罪を唇で描きつつ、衝動に突き動かされるまま、金色に輝くベルトに手をかけた。



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