> 「よっ、ボーイ、今日は一人か?」 「・・・イアン。」 学校が半日で終わった俺は、今日は皆より一足早くスピリット・ベースに来て、暇だったから学校の課題をしていた。 そして俺が来てから約十分後、イアンがやって来た。 俺を変な呼び方で呼ぶイアンが。 「へぇ、古典かぁ。俺、英語か歴史なら教えてやれるんだけど、日本の古典は全くわかんねぇな。」 「別に、このくらい大して難しくないからいいよ。」 俺が言えばイアンはヒューっと口笛を吹いた。 「さっすが。勉強出来そうな顔してるもんな、ボーイは。」 「・・・あのさ、イアン。」 「ん?」 「その呼び方さ、なんとかならないの?」 最初の呼び方がちょっとあれだっただけに今まで俺も妥協してはいたけど、やっぱりどうせなら普通に呼んでほしい。 「なんだ、嫌か?ボーイって呼ばれるの。」 「・・・嫌って言うかさ、恥ずかしいだろ、それ。」 「ふーん、じゃあ何て呼べばいい?」 「いや、普通に名前で呼べよ。」 今はまだ無いにしても、そのうち街中で大声で“ボーイ”なんて呼ばれたりしたら、全力で他人のフリ出来る自信がある。 少なくとも俺は耐えられない。 チラリとイアンの方を見れば、何か思案するような顔をしたあと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。 正直悪い予感しかしない。 「じゃあさ、こうしようぜ。」 「・・・何、」 「お前が一人前になったら普通に呼んでやるよ。」 「・・・また、俺のこと新米だとか、そういうことを言いたいのか?」 「まさか、そういうことじゃないさ。」 「だったら、・・・っ!」 だったら何故だ、と続ける筈が、出来なかった。 イアンに、キスされたから。 それを理解したのは数瞬あとだった。 目を開けたまま俺にキスをする、イアンの瞳が少し笑うように細められたその中に、目を開けたまま固まっている俺の顔が映る。 唇が離れたのもまた、すぐには理解出来なかった。 事態が飲み込めてくると、さっきまであんなに冷静だったのが嘘のように恥ずかしくなってきた。 顔が、熱い。 「キスくらいで真っ赤になってるようじゃ、まだまだだぜ、ボーイ。」 「・・・な、に言って、」 俺の頭をぽんぽん撫でるイアンを一発殴ってやりたかったけど、キング達がやって来たからやめた。 俺の赤い顔に、熱があるのかと三人に心配され、家でも父さんに様子が変だと言われた。 勉強なんか手に付かない。 明日までに課題が終わらなかったら、イアンのせいだ。 > |