円正数 林間学校、それはわたしと円先生の距離を縮めるために学校側がわざわざ用意してくれた素敵なイベントである。山中をしばらく歩き辿りついた研修施設の前でみのりちゃんによるオリエンテーリングの説明が始まる。ふたりひと組になって担当の先生がいるポイントをまわり今日の晩御飯のカレーの具をもらう…うんうん、なるほど。前方のホワイトボードに張られた地図から円先生のいるポイントを確認しつつくじを引く。8番か…周りを見ると男女ペアが多い。ペアはできれば女の子がいいなあ… 「みょうじさん8番!?俺っ俺も8番!同じクラスだけどしゃべるの初めてだよね!?俺、安田貢広!あ、名前くらい知ってっか、じゃあよろ…」 「フン!」 「ぐあっ!?」 自分の名前まで名乗ってくれたところに悪いが、安田くんの鳩尾に思いきりパンチを食らわせる。女子ならともかく、男子とペアなんてやっぱりイヤだ。痛みに震える安田くん、トドメにもう一発くらわせたあとハデス先生の所へと連れて行った。これでわたしは心置きなく一人で円先生の元へいける。 「ったく円アホじゃねーの!崖の上に課題とか取れるわけねーだろ!」 円先生のいる元へ向かう途中、すれ違った女の子たちがそういっていた。崖の上に課題?円先生ってば…!崖の上ってことは、ご自分で登ったのだろうか。そうやって愛する生徒たちに厳しい試練を与えて強い子に育ってほしいという先生の考えが浮かぶ。ああ円せんせえ〜!いますぐ会いにいきますからね! らんらんとした気分で円先生のいるポイントに到着した。なぜか生徒はわたし一人だ。先生とふたりきり… 「ムッ?君はA組みょうじ…」 「みょうじなんて他人行儀な呼び方しないで名前で呼んでください!」 「何度も言っているが私は教師で君は生徒だ。なにより、生徒を名前で呼んだりするとPTAがうるさいからな」 「学校では構いません!でも、いまわたしたち…ふたりきりなんですよ!」 「それよりみょうじ、ペアの生徒はどうした。二人一組で協力しろと言われているはずだろう」 「ペアの子は体調不良で休んでいるので、わたし一人でここまで来ました!」 思えばくじ引きで決まったペアの子が、躊躇なく乱暴できる安田くんでよかった。こうして先生とふたりきりになれたんだもの。 「先生…今行きます!」 「フン…今まで何人もの生徒が崖に登る前に挫折したのだ、君のようなか弱い女子一人では私の元へは辿りつけまい」 そんなのやってみないとわからないじゃないですか!わたしはゆっくりと深呼吸した。山の澄んだ空気がスーッと体の中に入っていく。鳥のさえずりが、木の葉のさざめく音が、心地よい風が、わたしを高めてくれる。先生への爆発しそうなこの気持ちを、力へと変えてくれるのだ! 「バカな…まるで猿のような身のこなしを…!」 驚く円先生が少し面白かった。わたしとあなたの間に流れる川なんてなんてことない、崖を登るなんてなんてことない、貴方に会えるならわたしはなんにだってなってみせる。 「先生…」 あっという間に先生の前までやってきた。あのね先生、わたしカレーの具なんていらないの、先生が欲しいの。先生が食べたいのよ。先生をカレーの鍋にいれて人参や玉ねぎと一緒にトロトロに煮こんじゃうのもアリだけど、わたしはありのままの先生をナマで召し上がりたいの。 「や…やめるんだ!私と君は教師だ!それに今は林間学校という貴重な学業の…」 「何度いわせるの先生…いまわたし達ふたりきりなのよ…それにこんな崖の上誰も来やしないわ…」 「触るな!大人をなんだと思ってるんだ!やめ…やめてッ!」 大人になるまでなんて待てない、わたしは今すぐ先生が欲しい ね、いいでしょ? |