「ホントにありがとーございました。飯、すっげぇー美味しかったです」
「……おう、……」
「……大丈夫?まだ逆上せてる?」
「別に」
「じゃあ怒ってんの?」
意識を飛ばしてしまったブン太さんと共に風呂場へと向かった俺は、その人の身体をキレイにしそして自分の身体も同様に洗った。
最中、意識の浮上したブン太さんにまた情欲を覚えそこでもシてしまったんだけれど、ブン太さんは抵抗せずに受け入れてくれたし問題ない…―――っつーかヘタり過ぎて抵抗する力すら出なかっただけだとは思うが。
ま、まぁそこはね。…ね?
一応明日の出勤時間聞いてみたけど休みだって言ってたから、“ならちょっとくらい無茶しても大丈夫かなぁー”なんて思っちゃった結果というか何というか……。
「怒ってねぇーよ。そりゃちょっとケツ痛くて辛いけど…」
「……す、すみません」
「や、だから良いって別に」
現在、湯から上がった俺達は夕飯を食した後ソファーで寛いでいた。
ブン太さんを自分の脚の間に座らせ自分の腕の中に閉じ込めるように背後から抱きしめて、ゆったりとした至極穏やかな時間及び空間を堪能中。
―――うん。やっぱ俺、すっげぇー幸せだわ。
「あ、そーいやさ、…あの日、なんであんなに拒否ったんスか?やっぱり疲れてたから?」
「……?…あぁ。俺、お前の様子見に帰ってきただけだったからさ、あんまり長居は出来なかったんだ。すぐ戻んなきゃいけなくて……。だからヤんのはさすがに無理かな、って思ったんだよ。時間的に」
「……………」
つーかお前、俺いないときカップ麺だけで生活すんなよ。
苦笑しつつも俺の頭を撫でるブン太さんに胸の奥がジーンと温かくなり感動し、でも同じくらい申し訳なく思う。
まさかそういう理由だったとは……。
「ブン太さん、もう俺のこと気にしなくていーっスよ?仕事大変な時はそっちに集中してください」
「……………」
「ブン太さん……?」
ちゃんとした人間にはまだまだ程遠い俺だけど、こういう一歩が大事なんだよな。きっと。
ブン太さんに逐一世話を焼いてもらってお荷物になるなんてのはやっぱりダメだ。
……と、そう考えて口にした言葉だったのに、ブン太さんの表情は何故か優れない。
不思議に思って、その理由を尋ねようとした俺の口が開ききる直前、ブン太さんはかなり狼狽しながらソレを吐露し始めた。
「〜〜っ、な、なんでわかんねぇーんだよっ!さ、察しろよ、この馬鹿!」
「へ?」
「お、俺だって、いくら仕事で仕方ないっつってもそう思っちまう時もあるし、もちろんお前の生活習慣も心配だけど、それも本当なんだけど、でも……」
「え、ちょ、どうしたんスか?……何の話?」
「……〜〜だっ、だから…っ!お、俺だって、無性にお前に会いたくなる時とか、お前の声がすっげぇー聞きたくなる時とか、お前に触れたくて、お前に触れられたくて仕方ない時とか、そういう時があんだよってこと……っ!」
「―――…っ、」
まくし立てるように、勢いよく吐き出されていった言葉達。
髪の毛の隙間から見えるブン太さんの耳は赤く染まっていて、羞恥に堪えながらも口に出してくれたんだなと分かる。
つまり、ブン太さんは俺の様子見も兼ねて自分の欲求も満たしに一時帰宅した、……と。
ようするにそういうことっスよね?
「な、なんだよ。何か文句でもあるってのか?」
「いや、無いどころかもう一回くらいヤりたくなっ…―――」
「断固拒否」
「冗談ですってば。ンな睨まないでくださいよ。あ、じゃあさ、なんであの台詞言ってくれたりエプロン着てくれたりしてくれたんスか?俺、結構それも気になってたんスよね」
本当は冗談なんかじゃなかったけど、ブン太さんが本気で怒りかけていたので急遽冗談としてのものへ変える。
続けて第二の疑問を口に出してみれば、“お前のご機嫌取り”と小さく返答を紡いだ。
「拗れて別れたりすんのとかは絶対嫌だったしな。……けど、俺にはアレの何が良いのか理解出来ねぇ…」
「え、可愛かったっスよ?」
「うるさい」
俺がブン太さんと離れたくないと思っているように、ブン太さんも俺と離れたくないと思ってくれていたことがすごく嬉しく思う。
らしくないことを言ったと思っているのかブン太さんはどこか落ち着かない様子だったけれど、俺にとってはそれすらも可愛く思える仕草だった。
「つーかさ、俺の方こそブン太さんと別れんのなんて死んでも嫌っスよ?」
「…うん、」
「今日だって、光達がブン太さんに手ぇ出すとか言うから脅してきたくらいだし」
「………は?」
「これに懲りてあんな戯言はもう言い出さないとは思うっスけどねー」
「ちょ、お前何した!?……え、お前ら友達なんだよな?友達に何したのお前っ」
「友達だけどブン太さんに手ぇ出すなら問答無用で潰します」
「…………。つ、つーかさ、冗談でそう言ったのなんて普通に考えて分かるだろぃ?何も脅す必要はな…―――」
「俺にブン太さん関係のことで冗談吐くってのが許せないんで」
「……………」
俺が如何にブン太さんを愛しているか、あいつらは特に知っていて、それ故にものすごく腹が立つ。
大体あいつらも恋人いんのに人の恋人にちょっかい出すなんて浮気確定だし、二人の相手の代わりに制裁加えるくらいは別にしても良いと思うんだよね。
例え冗談だとしても、恋人がいる以上そういうことを軽々しく口にするのは最低なことだと思うし……。
恋人と、冗談に使われた相手に対して失礼過ぎる。
「……重いって思いますか?でも俺、それくらい好きなんスよ。―――…アナタといる今が、過去が、そして未来が、俺にとって一番の幸せなんだと思う。……ねぇ、ずっと一緒にいてもいいですか?ずっと、一緒にいてくれますか?」
幸せってものがどういうものなのかはっきりと言い表すことなんて俺には出来ないけれども、
―――なんとなくで良いのなら、ブン太さんの一番近くにいることが俺のソレなんだと思った。
「……知るかよ。“この先どうなるか”なんて、そんなのわかんねぇし」
「でも……っ!」
「でも、“今”の俺はお前と一緒にいたいって思ってる。それはもちろん“ずっと”で、自分が今こうやって過ごせてんのは、日常を幸せだと思えるは、お前が隣にいるからだってのも事実として此処にある」
“だから、可能な限りは一緒にいさせてほしい”
そう言って俺を見つめる瞳はすごくすごく真剣で。
……その言葉を聞けただけでこんなにも泣けてくる今の俺は、誰かに泣き虫と言われ笑われても文句は投げられない。
「――…っふ、…〜〜ぅ゙、…ブン太さ……っ」
「ばぁーか。何で泣くんだよ?」
―――…俺という人間が、誰かと一緒に居ることでこうも変わっていくなんて、ブン太さんと出会う前の自分は想像もしていなかったと思う。
でもそれは決して悪い意味ではなくむしろ良い意味で。
誰かを必要とし、誰かに必要とされるのは、
すごく単純なことだけれど実はかなり幸せなことなんだと知った。
ましてや好きな人とそうなれた俺は、とてつもなく幸せだったんだろう。
わしゃわしゃと、いつもどおり頭を乱雑に撫でられながら、腕の中にいるブン太さんをキツく抱きしめた。
「っ!?、おまっ、ちょ、苦し……っ!」
「―――…じゃあ、可能な限りは一緒にいましょうね。ま、俺がブン太さんと離れたいなんて思うことは一生ないっスけど」
「ハッ、どーだかな」
「ないっス!」
「ムキになんなっての。……ま、現時点での心境で言うと“俺から”ってのもないけど」
「―――へへっ。俺のこと、すっっっげぇー好きだから?」
「愛してるから」
「―――…っ、……ホント、何なんすかぁ?アンタ。…ったく、デレんの唐突すぎ」
「嬉しいくせに」
「本当は照れてるくせに」
「……うっせ」
「――ねぇ、」
「ん?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
頭だけを後ろに振り向かせたブン太さんと少しの間見つめ合い、どちらからともなくキスをする。
明日の講義は午後からだし、俺は心行くまでブン太さんとじゃれ合うことを勝手に決めた。
―――…在るような無いような、
分かるような分からないような、
“曖昧模糊の幸せ”。
俺達のそれは誠であり、そして絵空事のようでもあったのだ。
(…あ。そーいや俺、今度ジャッカル先輩のとこに行くんスよ)(ジャッカルんとこ?え、なに、店?)(そうっス。……ちょっと癪だけど、ブン太さんに謝れたのは光と日吉のおかげでさ。だからその貸しを返す為に奢ることになっちまって)(…そっか。…じゃ、俺も感謝してたってアイツらに伝えろよ?)(了解っス!)
end.
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