“キミは今、幸せですか?”


―――…ブライアンさんの言葉。
俺に投げかける問い掛け。





“幸せ”。
その定義は分からない。

それは、明確に何かで証明出来るようなものではないからだ。





“ブン太クンは、今の自分は幸せなのだと、……そう、言っていましたよ”


だけど、ブン太さんはその不確かな定義をきっちり自分で見極め“幸せ”を感じている。





ブン太さんの幸せと
俺の幸せ。

それはやっぱり個人の感覚で感じ取るものだから、そもそがイコールで括れるようなもんじゃないんだけど…―――。

























「あっ、あっ……!」

「大丈夫?ブン太さんの脚、すっげぇーガクガクしてる」


一般家庭に在るにしては広々とした範囲を持つこの場所。

それに見合ったようなスペースを持つ作業台の上に、なし崩し状態で突っ伏しているブン太さん。


戯れ程度だった胸への愛撫や、最終的行為での苦痛を軽減させる秘部への慣らしも充分に済ませた俺は、久しぶりに身を繋げられるということに歓喜を抱きつつ自身のいきり立つソレを恋人のナカへと埋(うず)めた。



そして現在、

愛しいその人は俺のものを容易に受け入れ、嬌声を漏らしながら絶え間なく腰を振っている。










「っ……あっ、やぁっ、!だ……めっ」

「だよね。でも我慢して、っつーかヘタってもちゃんと支えるから大丈夫っスよ」

「あぁっ……!んっんっ」

「だからさ、ブン太さんはそのまま俺で目一杯気持ちよくなっててよ」


頭部に口づけを落とし直後には耳元でそう囁く。

しっかりと喘ぎながらも相変わらずの嫌々をする目下の恋人がすごくすごく愛しすぎてたまらない。



あの日のコレは完全なる拒絶だったけれど、今日のコレは違うんだと感じ取れる。

―――…“いつも”の癖だ。










「ひぁっ!?――…あ、あっ、あぁっ…!」

「ここ、好きなんだよね。……気持ちい?ブン太さん、」

「あぁっ!やっ、あっあっ、あぁっ」

「っ、……あー…ブン太さんホント可愛い。……俺、思うんスよね。、美しさは罪っていうけどさ、ぶっちゃけ可愛さだって充分に罪だ、って」


だってブン太さん、俺のことを魅力して止まないんだもん。

そればかりか、俺がちょーーっと目を離した隙に害虫引き寄せたり害虫の方へ行ったりしてさ。


俺以外の奴らも魅力してて恋人としてはかなりの困りものだ。










「あっ、だめっ……んっんっ」

「今日はいつもどうりのダメですね。俺、すっげぇー嬉しいっス!お礼に、もっと深くシてあげる。ブン太さん、深いのも好きだよね?」

「ひッ、あっああぁ…っ!―――んっ、あ…あぁっ!……あっ、やっ、……あっあっ」


中間くらいまで埋め込み抜き差しを繰り返していたソレを、ズンッと奥まで一気に入り込ませる。

瞬間、ブン太さんのものは弾け若干濃いめの白濁を吐き出した。


それを見届けたあと、俺は力なくへたり込もうとするブン太さんの身体を支え、再び自分の腰を打ちつけ出し行為を続行。

達したばかりのこの人にはキツいかもしれないけど、俺のはまだ元気だしここは耐えてもらうことにした。










「すっげー濃かったっスね?」

「ふ、あっ!、あっあっ……っ、あ、たりまえ、…だろぃ……〜〜シ、てなかったんだし、」

「まぁね。でも安心したっス。浮気とかしてな…―――」

「死ね…!」

「冗談っスよー」


ケラケラと笑いながら、また頭部や背中へ軽くキスを落とす。

それだけでも今のブン太さんはすごく感じてしまうらしく、
少し眉を垂れさせ俺を振り返った。










「赤也……、」

「……………」


目尻には生理的な涙も溜まっていて。
だから当然瞳も潤んでいる。


はっきり言って俺はブン太さんのその表情にノックアウトされた。

……つーか俺がブン太さんに勝てたことなんて格ゲーの勝負くらいしかないけどな。










「あっ、んっんっ、だめ…っ…も、やぁ……っ」

「っは、……もう、ちょっとだから頑張って……」

「ひぅっ、あっあー……んっ!」

「……ブン太さん、俺―――」


“キミは今、幸せですか?”


脳内で反響し続ける問い掛け。


もちろん、情事の最中は幸せ過ぎるくらい幸せで。
心身ともにすごく満たされた感覚を感じることが出来る。

でもそれがずっと続くかと聞かれれば、やっぱりそういうワケもなく……。



俺はかなり嫉妬深いしちょっとしたことで妬いてしまう。

大好きだから特に。




“ブン太クンは、今の自分は幸せなのだと、……そう、言っていましたよ”


ブン太さんが幸せだというのは嬉しいことだけど、俺も同じくらい幸せを感じることが出来るけど、
でもそれはあくまでも“同じくらい”であって全くの同じじゃない。


同じじゃあないんだけど…―――。











「俺、幸せです。たまに邪険に扱われて、しょっちゅう暴言吐かれたり殴られたりもするし、ケンカだって割りかしらたくさんするけど、……でもさ、」


なんて言うんだろう。
なんて言えばいいんだろう。


ブン太さんの存在も、ブン太さんと一緒にいる自分自身も、……空間も。

好きで、好きで、たまらなく好きで。
大好きで、愛しくて、
それ以外の想いを抱く隙間は限りなくゼロに近い。




俺は手離したくないんだ。
この満たされた感覚を。

一度でも知ってしまったら、
一度でも手に入れてしまったら、
想いの道を違えることなんて出来っこない。










「―――…ブン太さん。……好き、大好き」

「!、――あっ、あっあっ、ひぁっ!…〜〜や、ぁッ!ああっ、あ…っ、あああぁぁぁーー……っ」


ぎゅうぅっと両手共をキツく握り込み、ブン太さんは拳を作っている。

俺はその双方の手の上から自分の手を重ね、ブン太さんと同じようにキツく握りしめた。





卑猥な水音。
艶やかな嬌声。

それらは室内に響き渡り、俺の鼓膜を否応無しに揺らす。



発せられた嬌声によって一際大きくそれを揺さぶられた直後、
内壁からの急な締めつけにより俺は自分のものから白濁を吐き出したのだった。















―――…ブン太さん。

俺、今は迷惑かけてばっかりだけど。
ブン太さんに頼ってばっかりだけどさ。


でも、いつかきっと、

ブン太さんに頼ってもらえるような、
ブン太さんを守ってあげられるような、


そんな立派な人間になってみせるから、
だからもう少しだけ、待っていてくれませんか……?





切実な想いを内心で吐き出しながら、俺は意識の途切れた恋人を浴室へと運んだ。


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