「取りあえず座って座って。」

「いえ、私は立ったままで結構ですから。」

「座って。」

「……はい。」



セフィリアから発せられる逆らえない圧力にマルコは席についた。
こんな小さな少女であるというのに纏う空気は上司であるジェイドにも勝るのではないかと心中思うのであった。



「では早速質問!ここはオールドラントっていう星で間違いない?」

「え?は、はい。」

「国はどれくらいあるの?」

「国、ですか?大きく分けるとマルクト帝国とキムラスカ・ランバルディア王国の二つです。あとは中立国のダアトや自治区のケセドニア。」



誰でも知っているような事を聞いてくるセフィリアに怪訝な表情をするも答えをくれるマルコ。
しかしセフィリアはこのような基本的な事を聞きたい訳ではない。星の名や国、歴史など既知だ。



「OK、じゃあ最後に、始祖ユリアはこの星に関連深い人物?」

「それはもう!ユリアの予言は絶対ですから。」

「はーい、ありがとう。」



聞きたかったのはこれだ。ここが本当にユリアの予言に縛られた星かどうか。
ユリアの予言が綴られた書物を昔、天界で一通り読んだ事があるのだが、あれは悲惨な結末を迎える者があまりにも多すぎる。
さて、それならやるべき事は一つ。あの子ができなかった事を、そしてあの子が望むであろう事を私がする。



「それだけで、良いのですか?」

「うん、大丈夫。」



先刻述べた『昔天界で読んだユリアの書』というのはオールドラントでは円環となっているものや未発見のもの、さらには惑星予言まで全てを含む。つまり冊数にするとそれこそ既存の単位では足りないものだ。
しかしセフィリアにとってその内容を記憶する事は造作ない。こう見えても彼女は限りなく天才に近い秀才だ。
とにもかくにも彼女は確信した。頭で流れる惑星予言の内容、その中心人物がルークである事を。



「(やれるだけやってみますか。)」



たまには天使らしい事もしてみよう。そう思い口角を上げたところでお世辞にも丁寧とは言えない音をたてながら鉄製の扉が開かれる。
すかさずマルコが立ち上がりルークに問いた。



「ジェイド大佐にお取り次ぎしますか?」

「ああ。」

「承知いたしました。」



そう言って一礼すると部屋を出て上司を呼びに向かう。
相変わらず口論の絶えないルークとティアを横目にセフィリアは一人今後どう動くかを考えるのだった。





□□□





「むーかーつーくー!!!」

「すみません…」

「マルコさんは悪くないけど!あんの眼鏡野郎!!」



ルークが話を聞くとのことで部屋に戻ってきたジェイドにやはり部外者のセフィリアには話を聞かせる訳にいかないと言われマルコを付けて外に追いやられた。
その事に憤慨中のセフィリアに謝るばかりのマルコだがセフィリアの言う通り彼に非はない。



「(まぁでも自由に動けるのはありがたいかも?)」

「あ、セフィリアさんそっちはいけません!」

「ちょっとだけだってばー!それともマルクト軍ってのは女の子にぞんざいな扱いをした上に少しの我が儘も聞いてくれないような人たちの集まりなの?」

「そうゆう訳では…」

「別に戦艦の操縦がしたいとか言ってるんじゃないんだし艦板に出るくらい良いでしょ?」



お願〜い、とアニスよろしく身体を捩らせて懇願する。
マルコは躊躇していたがどちらが先に折れるかなど火を見るより明らかだ。



「あ、あまりはしゃがないでくださいよ…」

「はーい!」



上機嫌に返事をしたセフィリアは艦板へ繋がる階段を軽い足取りで駆け上がった。
艦板にはちらほらと兵士がおり、セフィリアの姿を見て何故ここにあんな少女が、と同じ疑問を抱いた。



「あっちは何があるの?」

「艦長室です。」

「じゃああっちは?」

「倉庫や捕虜部屋などですね。」

「ふーん。」



好奇心旺盛な子供のように振る舞っているがこれはただの演技だ。
こうして脳内ではタルタロスの艦内地図が出来上がっていく。
これもこの後スムーズに動くために必要な事である。



「…そろそろかぁ。」

「何がですか?」

「ううん、こっちの話。あ、そうだマルコさんに良いものあげるね。」

「?」

「第三通路の左から二番目の部屋に行って。そしたら壁をこの爆弾で吹っ飛ばしてそこから逃げてね。」

「は?」

「できれば大勢の人たちと。」



そう言って艦橋の方へと足を向け歩き始める。マルコは掌に乗せられた小さな小箱を見つめた。
そんな時、突如鳴りはじめる警鐘に兵士たちがざわつき出した。



『前方20キロ地点上空にグリフィンの大集団!総数は不明!総員第一戦闘配備につけ!』



艦長らしき者の声が響き渡る。それとほぼ同時に艦体が大きく揺れた。
グリフィンからライガが投下されたのだ。



「それじゃあ元気でね!」

「セフィリアさん!?」

「世の中には開けて得する玉手箱もあるんだよ。」



走り出したセフィリアを追おうとするが『玉手箱』という単語に先刻彼女が言った言葉を思い出す。
短い時間ではあるがこの少女の言うことには従うべきであるとマルコの勘が告げる。
手の中にある小箱を握りしめてマルコは周りで戦う同士たちを第三通路へ向かうように呼びかけた。





□□□





『艦橋、どうした?』

「っ…機関部が…うわぁ!」

『艦橋!艦橋応答せよ!』

「はーい、何ですか?」

『は…?な、なぜあなたが……何をしてるのです。』

「ライガに食べられそうになってたあんたの部下を助けてあげたんだよー」

『ライガに…そう、ですか…それは感謝します。』



思わぬ人物の登場にらしくない戸惑いを見せるジェイド。まさか戦う事ができたとは。そんな驚きが聞こえるような声にセフィリアはニヤリと笑う。
現に今彼女の手には身長を遥かに越える大鎌が握られておりその刃の先からはライガの血が滴っている。



「何でもいいけど早くどうにかしてよね。」

『はい、私も今そちらに向かいます。それでは。』



通信が切れ、セフィリアも通信機を壁にかけ直す。
助けた兵士は軽傷を負っているもののまだ動ける。彼にもまた同じように逃げる事を進めセフィリアは逃げ遅れた兵士の援護に向かった。







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