(名前Side)





その人は例えるなら花のような人。

口を開けば優しい声。
瞳を覗けば可憐な花。
彼女が微笑めば世界が幸せに包まれる。


そんな彼女は私の大切な一一一














天使のような純粋無垢で一点の汚れもない彼女をいつしか私は大切に思っていました。

生まれた時から共に生きていた訳ではありません。
出会うまでの14年という歳月は違う人と違う環境で過ごしていました。
それでもまるで片時も離れた事のないような、全てを知り尽くしているような、そんな気持ちになるのです。










愛すべき父を討つという辛い戦いを経ても涙を耐え、前を見据えた彼女。
本当は泣きたいというのに気丈に振る舞う彼女を私はただ抱きしめてあげる事しかできなかったのです。
それでも彼女はそれを割り切って新たな人生を歩み始めました。












一度は瓦礫と化した彼女の故郷が世界の中心となってから。
短くなった髪も再び長くなり、身長も伸びて、誰もが振り向くような美しい女性に成長しました。
それでもやはり彼女は変わる事なく真っ白で、私の大好きな純粋な笑顔を見せてくれるのです。




花がないと光が何を照らせば良いかわからないように私は彼女がいないと自分がどこに進めばいいかわからないのです。
それほど彼女の存在は私にとって大きなもので、隣にいる事が当たり前でした。

だから、

彼女がアンチスパイラルのメッセンジャーとなり鋭い視線で私を貫いた時、私の世界は真っ暗になったのです。
そしてただただ彼女を返してと月に向かって叫びました。










そして人類の未来をかけた戦いを続け、辿り着いた結末は螺旋族の勝利。
でもそれは私にとって喜びと同時に死刑宣告でもありました。

アンチスパイラルの仮想生命体である彼女は存在そのものが消滅してしまう。

それを覚悟して戦いました。
彼女もそれを理解した上で立ち向かいました。

彼女は消える事を恐れてはいないと言いました。
それでも私は涙を流さずにはいられなかったのです。

どうして神様は私と彼女を引き離すのでしょう。
同じ時を過ごすのはそんなにも重い罪なのでしょうか。


そう考えてしまいましたが、残りの日々を悲しみに明け暮れる訳にはいきません。

それに彼女は一週間後に愛する人との結婚式を控えていました。
宇宙一美しい花嫁に暗い顔は似合わないでしょう?
彼女には最期の一瞬まで花であってほしいのです。

だから私は彼女と過ごす一分一秒、全ての時間を笑顔で過ごしました。
もちろん彼女にもやる事がありましたし、彼と過ごす時間もありました。
だからこそ共有する同じ時間を尊い宝物のように感じたのです。

その共有した時間で私たちが行った事は一つ、花を植える事でした。
それは世界を花でいっぱいにしたいという彼女の願い。

そのお手伝いをするのは幸せでした。
泥だらけになろうが服が汚れようが気にならなかったのです。












そして一週間はあっという間に経ち、結婚式の日がやってきました。
きっと今日が限界。それは予想というより確信に近いものでした。
それでももう涙は出ません。ちゃんと自分の心を整理したからでしょう。


ピンクのウェディングドレスに身を包んだ彼女はこの世のどんな言葉を用いても表す事のできない美しさでした。
式が進み、彼と愛を誓いキスを交わすと彼女の身体がうっすらと透けて、粒子となってキラキラと消えていきました。
そんな彼女は最期まで笑顔で、私の大好きな彼女でした。










その後愛する者が消えてしまった世界で。
私は今でも花を植え続けています。
彼もまた世界中に花を、彼女が育てた笑顔の花を植えて回っているでしょう。
ここには共に生きた仲間がいますが彼女はいません。


だけど彼女が花であるように、この見渡す限り花が咲き誇る世界は彼女を思わせました。
そう思うと私は私でいられると感じるのです。




(花の天使は私の最愛の友)