ずっと大事にしてください




「うう…腰痛い…」

「魎が悪いんだろ?」

「そうだけど…」


はだけた着物を直しながら首無が幾分かスッキリした笑みを浮かべた。
怒る気もしない。
というよりも、多分今後しばらくは怒らないと思う。


今回の件で、怒るのも後先を考えないといけないと学んだ。


「…茶室で、こんな事しちゃダメなんだって…」

「そうなんだ、俺は茶道の心得が無いから知らなかったな」


そう言う首無は俺の箱を棚にしまった。
俺の引っ越しは考え直してくれたようで少しホッとする。

ぐったりと横になった俺をあやすように首無が俺の髪で遊んでいた。
優しい指使いにくすぐったさを覚える。


「…魎は綺麗だよ。棗の装飾と同じか、それ以上に」

「…ん、嬉しい」

「ああやって怒るのも、意味わからなくて面白い」

「そう言ってくれると…ちょっとは罪悪感が薄れる…」


首無の言葉から、首無が俺の顔だけじゃなくてモノとしての俺も俺の性格も好いてくれているという事が伝わった。
口元に近づいてきた首無の指がたまらなく愛おしくなって思わず唇を落とした。

首無の小さな笑い声で俺も笑う。

ようやく仲直り出来たと実感した。


「そう言えば魎の中に唐辛子入れっぱなしだったね」

「うん…抹茶に戻してくれる?」

「いいよ、ついでに引越しもしようか」

「え……棚に戻すの…?」


予想だにしなかった言葉に思わず体を起こして首無を見上げた。

上げて落とす戦法…?
実はまだ怒っていたとか…?

青ざめた俺に違うと言うように首無は顔を横に振る。


「今度から魎は俺の部屋に飾ってあげるよ」

「え、それ…って…」

「ずっと一緒ってこと。嫌かい?」

「嫌じゃない…っ!…嬉しい…」


顔の筋肉が緩んでしまうのは仕方がない。
ありがとう、と首無を見上げると何故か首無は目を丸くしていた。


「…首無?」

「……その顔は反則だろ…」

「っ」


抱きしめられて耳元で囁かれたその声に背筋がゾクゾクと震えた。


「…引っ越しさせる理由はもうひとつあるんだ」

「ん、…何?」

「茶室でこういう事するのは、禁止なんだろう?だったら今夜から俺の部屋ですれば良いからね」


さらっと当然のように下世話な台詞を吐いた首無の顔が、微笑んでいるのにとてつもなく恐ろしく感じた。

これから先、夜は人型に戻っていないともっと恐ろしいことになりそうだ。


「…俺の腰、大丈夫かな…」

「人間の魎は病弱だったけど、棗の魎はそうじゃないから大丈夫だよ」

「首無…、実はまだ怒ってる?」

「…俺がどれだけ魎が好きか、ゆっくり時間をかけて教えてあげるよ」


もしかしたら、棚の中にしまわれていたほうが俺の体のためになっていたのかもしれない。
首無の口付けを受けながら、俺は今回の喧嘩を心から反省した。

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