運命的な出会いをしたんだ! 奇妙で面白いものを見つけた、と浜辺で鯉伴はそれを凝視した。 黒い布をまとって、岩陰で蹲っている。 時々「オオゥ…」と聞こえる呻き声は泣いているのではなく苦しんでいるようだ。 布から白くて細い骨ばった腕が伸びている。 そして、文字通り毛色が違った。 「見ねぇ面だな、何者だい?」 目の前でしゃがみこんで話しかけると、ゆっくりと白い顔を上げる。 浜では異国船が荷降ろしを開始していた。 ということは異国の妖だろう。 緑色の瞳に思わず見惚れる。 目鼻立ちのハッキリした顔は、そこらの絵描きが書いた異国人とは全く違っていた。 「へぇ〜…南蛮の妖怪ってのはお綺麗なこって…」 「?」 「それにしてもどうした?どっか悪いのか?」 「…△∵×ΠΨ○…」 「…………あ、そうか」 言葉が通じない。 さらさらと流れるような声は低く鈍いもので、きっと具合が悪いのだろうと勝手に思う。 船にでも酔ったか? そもそも何しに来たんだ? よくわからないが、せっかく江戸に来たのなら楽しんで貰おう。 「なぁ、俺の家に来いよ。ちぃっと休んでいけや?」 「………◇Эж×?」 「ほら」 立ち上がって腕を取って。 手でこちらを仰いで、笑う。 不思議な表情でゆっくりと腰を上げて、ふらふらしながらついてくるから小さく安心した。 「名前もわかんねぇのはあれだな…そうだなぁ…魎、ああ魎が良いな」 「魎……?」 「お前のことだ。俺は奴良鯉伴、よろしくな魎」 「…ヌラリハン」 「おう」 本家の妖怪もきっと驚くだろう。 その様子が鮮明に想像できて楽しみになる。 「…∵Π◇Э. ヌラリハン」 「ん?おう」 言葉はわからないが、多分敵では無いだろうから適当に返事をする。 魎と名付けられた妖怪の「ありがとう」は意味を成さないまま潮風に流された。 [*前] | [次#] 【戻る】 |