残酷な優しさを届けに



それから後は手際よく事を運んだ。
眠りこけた魎を過去に使っていた粗末な家に連れて行き、布団を敷いて寝かせる。

ボロボロだったが使えないことは無い。
形があれば、あとは何とかなるだろう。


「……悪いが魎が起きる前までに掃除しといてくれ。裏の畑も手入れを頼むぞ」

「はい」


自分の組の者たちに魎のことを知られるのが嫌だったが仕方がない。
狒狒の身近な女妖怪に世話を任せて、これからのことを考えた。

原因なんて考えても無駄だ。
そして魎の治療も考えたって無駄だ。

ぬらりひょんの言葉が身に染みる。
魎の症状が悪化したのは、自分のせいだ。


「……魎、なんでじゃろうなぁ。お前が隣にいればそれだけで良かったのに、今はお前といたくねぇ…」


そこまでお人好しな性格じゃないことは自負していた。
だからこそ腹が立ってしまったのだ。
もう少し優しければ、何食わぬ顔で接し続けられたかもしれない。


「…すまん……」


共にいることが出来ないならば、離れれば良い。
単純で残酷。
狒狒の決断したことは、誰も得をしない結果となった。









「……んー…?狒狒……?」


むくりと起き上がった時にはもぬけの殻。
見慣れた天井に小さな部屋。
土間にはニ人分の食料と家財道具。

いつもの光景。


「まぁた勝手にどっか行ったな……ったく、今度はいつ帰るんだよ…」


ふらふらと出かけては暴れて酒を浴びて帰ってくる。
今回も適当に遊びに行って、そのうち帰るだろう。

そこまで考えて、ふと昨夜は狒狒がいたのか考える。
思い出せないのは昨夜きっと酒でも飲んでいたのだろう。

もしかしたら昨日ではなく一昨日、その前から狒狒はいなかったかもしれない。


いつものこと。


「……夢でも見たかな」


どんな夢だったか思い出せないが狒狒といた夢だった。
普遍的でありきたり、ごく普通の日常を過ごしていた気がする。

だからきっと勘違い。
狒狒は遊びに出かけていて、自分は留守番をしている。


ただそれだけのこと。


「……メシ食お…」


この日から、今までとはまた違う意味で永遠に繰り返される"毎日"が始まった。


朝餉の後に掃除をした際に見つけた一通の手紙。
差出人を見て、小さく笑う。
「元気にしてるか?」という一文から始まる手紙はだらだらとまとまりの無い文章が続いていた。

それでも魎は時折「へぇー」と声を出し、始終くすくす笑いながら読み続けた。


「ぬらりひょん、かぁ…俺も会ってみてぇなー……」


狒狒が気に入ったと言うだけありそうな男な気がする。
きっと強くて面白い奴だ。

狒狒が奴良組で楽しくやっているのであれば、そのうち自分もぬらりひょんや他の奴らに会わせてくれるだろう。
そうなれば狒狒の隣で世話を焼けるはずだ。

毎日二日酔いのような男だ。
朝餉には味噌汁が必須なのだ。
毎朝作ってやって飲ます必要がある。

あばら家の裏に作った小さな畑には大豆も植えてあるし、生前に母から味噌の作り方も教えてもらっていた。
狒狒も気に入っていた田舎味噌だ。
きっと今頃恋しく思っているだろう。


「……あ、いけねぇや。もう空が赤ぇ…」


畑の世話をして、夜は晩酌でもしながら読み返そう。
最後の「燃やせ」という指示には行灯を消す際に従ってやろう。

とりあえずは元気にしているようで安心した。

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