思い出の中に閉じ込めて



狒狒と魎が珍しく口論をした次の日、ぱちっと音が出るんじゃないかというほど勢いよく目を覚ました魎はそのままじっと天井を見つめた。

おかしい、どういうことだ。

疑問は疑問しか呼ばない。
考えれば考えるほど、答えなんて見つからなかった。


「――っひ、狒狒!狒狒いるか!?」

「……なんじゃ朝っぱらから騒々しい…」


スパーンと障子をスライドさせるとぼさぼさ頭の狒狒が寝ぼけ眼で魎の呼びかけに答える。
今までと違う様子にはすぐに気づいた。


「もしかして……何か気づいたのか!?」

「気づいたも何も…っどういうことだよ!?ここどこだ!?」

「……は?」

「は?じゃねぇよ!なんで一晩であばら家から立派な屋敷になってんの!?妖術!?」

「魎……?あばら家って…」

「お前と二人で住んでたじゃねぇか!昨日まで……何か知らねぇ奴もいっぱいいたし、でも俺のこと知ってるみてぇだし、お前は広い部屋で寝てるし、探すの超時間かかったんだけど!何これ怖っ!どうなってんの!?」


魎も狒狒も、互いに驚愕していた。
だが混乱する魎と違って、狒狒は現状をすぐに理解できた。


「と、とりあえず落ち着け魎。深く考えるな」

「考えるなって無理に決まってんだろ!昨日の夜に移動したのか思い出そうとしても思い出せないし…っ……なんかすっげぇ頭痛ぇ……俺昨日そんな酒飲んだっけ…?」

「魎!?」

「悪ぃ…ちょっと休む……」


狒狒にもたれかかるように魎は体を預けた。
しばらくすると規則正しい寝息が聞こえる。

魎は寝ぼけていたわけじゃない。
"総会の日"以外の時間を取り戻して、また失ってしまったのだ。


魎の言うあばら家とは今よりずっと昔に二人が使っていた家。
ぬらりひょんに出会う前、奴良組に入る前に、好き勝手しながら暮らしていた家のことだ。


「魎……なんでじゃ……」


記憶が戻らないかもしれないという不安以上に、自分も忘れられるかもしれないという不安が狒狒を襲う。

これ以上、こんな魎を見ていたくなかった。

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