平々凡々な毎日(其の一) 昼過ぎぐらいに起きて身支度を整えたら遅い朝餉を取る。 家……と言うよりも小屋と称した方が正しいような粗末なねぐらの掃除をした後は自由時間。 川に魚を採りに行っても良いし、二度寝をしたって良い。 何をしようか決めかねている時に目に入ったのは入り口の戸に挟まれた一通の手紙。 やけに重量感のあるそれを手にすると、差出人の名前を見て思わず笑ってしまった。 「似合わねぇことしやがって」 昔からよく知る友人。 いや、友よりも家族のような存在だった。 狒狒は文なんか書くタマじゃないはず。 用があれば俺のところに勝手にやって来て酒を飲むような奴だった。 最後に会ったのはいつだったか。 「珍しいこともあるもんだなぁ」 あの性格からは想像も出来ないほど達筆な文章に目を通すと、思った以上にその内容に引き込まれた。 なんでも面白い妖怪に出会ったらしい。 手紙には"ぬらりひょん"という妖怪のこと、そいつの組のこと、牛鬼や一ツ目達磨などという構成員について事細かに書かれている。 狒狒は酒を飲むか暴れるかの毎日だった。 だからきっとこういう男のもとにいると楽しくてしょうがないのだろう。 良い仲間が出来て良かったじゃねぇか。 「――……うわ、もうこんな時間か…」 気づくと日も傾きかけている。 流れるように手紙の最後の文を読むと、そこには"また書いてやるから読み終わったら燃やしてくれ。"とだけあった。 気恥ずかしい気持ちでもあるのか、それとも内容が内容なだけに組以外の奴に知られちゃまずいのか。 どっちにしろ、その頼みは聞いてやることにしよう。 家の裏にある小さな畑の世話をしたら空には一番星。 軽い肴を用意して独りで晩酌を楽しみながらもう一度手紙に目を通す。 寝る前、行灯の火で手紙を燃やして就寝。 ゆったりとした、良い一日だった。 [*前] | [次#] 【戻る】 |