ペットは可愛がりましょう



晴れてお友達となれた犬神はやり場の無い怒りと変な緊張で眉間に深い皺を作っていた。
どうしてこうなったのか本当に理解できていない。

チラリと斜め後ろを見ると、おもむろにイヤホンを耳に付けてi Podの再生ボタンを押す魎が見えた。



「おいコラ!!どういうつもりだ!」

「え、何が」

「なんで一緒に帰るのに音楽聞こうとしてんだよ!」

「えー、だって犬神何も喋らないじゃんか…俺が何言っても怒鳴るし、会話成立しないじゃん」

「…お前、会話成立させるって言葉の意味知ってんのか?なぁ、おい」



これまでほとんど犬神の言葉を聞かずにマイペースだった魎だったが、彼は彼なりにコミュニケーションを取っていたつもりだった。

ふてくされた顔をする魎に犬神は舌打ちをして先を行く。
トコトコと小刻みな足音が後ろからついてくる。



「早いよー。先に歩くんだったら一緒に帰る意味ないじゃん。リードつけるぞ」

「つけんな!」

「じゃあ手でも繋ぐ?」

「殺す気かよ!」

「殺さないよう頑張って押さえてみるから」



ほら、と魎は手を差し伸べる。
これまでに無いほど力を落として、といってもこの力はほとんど本人の関せずところで働くから実際に押さえられているのかはわからない。


「…………」


おそるおそる犬神は手を伸ばした。
小さく指が震えているのは、恐怖か緊張か。


「っいて!」

「ああ、やっぱりダメだったかー」


ピリッとした静電気。
まるで見えない何かが「触るな!」と手を払ったかのような痛みだった。
思わず手を放して、湧き上がる怒りで魎を睨みつける。



「なんで手も繋げねぇんだよ!」

「そんなこと言われてもなぁ…」

「なんで寺生まれなんだよ!」

「この身の上じゃなかったら犬神とこうやって話す事もなくて、俺も皆みたいに玉章の取り巻きの1人だったんだろうなぁ」






「…………じゃあ良いか…。スピード落としてやるから隣歩けよ!!」

「ありがと犬神。だいすきだよ」

「っ急に言うなよ!」

「俺の口癖だからしかたがない」



のんびりとした愛をゆっくりと育む2人を、玉章は影で面白そうに見ていた。
今後どのようになるのか、どんな茶々を入れてやろうかと考える。



「もし俺たちが付き合ったらキスも出来ないんだな。どうする?」

「うるせぇ!黙って歩け!」



飼い主は微笑ましそうに笑うだけだ。

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